第6回 がん診療連携拠点病院と「関労」

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平成21年12月公開
(※ 取材対象者及び内容は公開当時のものです)

関西労災病院(以下:関労)は、がん診療連携拠点病院として、質の高いがん医療の提供等を行っています。これは厚生労働省の指定を受けたもので、直接的な医療活動はもちろん、地域における連携協力体制の整備、がん患者さんに対する相談支援や情報提供なども行っています。
今回は、がん診療連携拠点病院として活動を続ける関労について、その機能や役割をご理解いただくために対談を行いました。

座談会
奥  謙 (院長)
高塚雄一 (副院長)

外科療法・化学療法・放射線を組み合わせた診療

――まず、がん診療連携拠点病院の概略からお聞かせください。

奥院長:

がん(悪性腫瘍)は死亡率の高い病気です。これをできるだけ低くし生存率を高めるには、全国のどの地域でも、質の高いがん治療が行える医療機関が必要です。そこで、専門的な治療を行うことのできる「がん診療連携拠点病院」を厚生労働省が指定し、がん診療の質向上や地域連携体制の整備などを推し進めています。

高塚副院長:

兵庫県内には、14カ所のがん診療連携拠点病院があり、うち都道府県がん診療連携拠点病院が1カ所、地域がん診療連携拠点病院が13カ所あります。関労は2007年1月31日付けで地域がん診療連携拠点病院の指定を受けました。実績として、当院が年間に対処するがん患者さんは3000例を超えています。これは他と比べても、かなりの数といっていいでしょう。

――がん診療における関労の特徴は?

奥院長:

放射線療法、化学療法、外科療法、さらには緩和ケアなどを組み合わせることで、多面的ながん診療を行っています。当院では、高塚副院長が部長を兼務する乳腺外科において、先行的にその診療体制を確立し、他の診療科もそれにならうかたちで体制づくりを行っています。

キャンサーボードにより最適な治療法を協議

――関労の診療体制について具体的にお聞かせください。

高塚副院長:

医師や看護師はもちろん、それ以外のコメディカル(薬剤師、検査技師等)とも連携しながら、診療科の枠を超えて治療にあたっています。かつてがんといえば、まずは外科ありきでした。しかし、縦割りだった診療科の垣根を取り払い、キャンサーボード(Cancer Board)と呼ばれる腫瘍カンファレンスを設置し、看護部を含め各診療科から専門家が集まり、個々の患者さんに対する最適な治療法をみんなで議論しています。

奥院長:

現在は胃がん、大腸がん、肺がん、肝臓がん、乳がん、婦人科がん、頭頸部がんについて7つのカンファレンスを立ち上げています。患者さんにとってはたとえ“入り口”がどこであっても、最適な治療が受けられる体制を整えています。

高塚副院長:

乳腺外科が先行した背景には、乳がんという疾患の特性があげられます。というのも、予後(手術後の治療成績)が良く、放射線や化学療法がよく効く疾患だからです。そのため患者さんごとに最適な個別対応がとりやすい面があります。女性特有の疾患ということもあり、リエゾンナース(精神看護専門の看護師)との連携が必要とされることもあります。すなわちキャンサーボードを導入しやすい疾患だということです。
いずれにせよ、これを稼動させるには、優秀なスタッフを集めることが重要な要件となります。当院は国内でも数少ない放射線治療品質管理士を抱えるほか、リソースナースなど専門的な医療スタッフが充実しています。

がんセンターや大学病院などに匹敵する充実した医療設備

――設備については、いかがですか。

奥院長:

もちろん専門的ながん診療のためには、医療設備の充実は欠かせません。当院ではこれまでも積極的な設備投資を行ってきました。乳がんの早期発見と治療に有効なマンモコイルをはじめ、脳腫瘍などで定位放射線治療を行うためのガンマナイフ、肺がん・大腸がん・乳がんなどの発見に効果を発揮するPET-CTといった高度医療機器がすでに稼動しています。これは大学病院並みの設備といえるでしょう。
今後は、腫瘍の形に適した放射線治療を行うIMRT(強度変調放射線治療)を導入予定。また、全国的にもまだ数が限られている320列CT(コンピュータ断層撮影)の導入も計画されており、これによってより精度の高い画像を得ることが可能になります。

高塚副院長:

新しい医療機器を取り入れることは、がんの早期発見や早期治療につながります。さらには機器の性能が良くなれば、患者さんにお待ちいただくことも少なくなります。
一方では、設備の整った医療機関であるほど、優秀なスタッフが集まりやすいという面もあります。設備や教育システムの充実を図っていくことで、当院で後期臨床研修を希望する医学生や研修医も増えています。

地域のかかりつけ医との連携強化

――地域の連携協力体制については?

高塚副院長:

乳がんに関しては、これまで30人ほどの患者さんについて、地域のかかりつけ医との連携を行っています。これは有効に機能していると考えています。地域との連携協力体制で、最もメリットがあるのは患者さん自身です。乳がんの場合、40代から50代にかけての罹患率が高く、この世代の女性は仕事や家事・育児に忙しいというのが実情です。なかなか時間がとりにくいわけです。ですから、普段の診療は地域のかかりつけ医、年に1度程度は関労で診療する。そういう役割分担が患者さんにとって最適な医療提供につながるはずです。私は患者さんに対して「主治医が2人になる」というふうに話しています。

奥院長:

関労ががん診療連携拠点病院の指定を受けて約3年。医療体制や設備については、指定前からある程度整っていたという思いがあります。先行的に体制づくりを行っていたわけです。今後は手術室の充実といった設備拡充や、優秀なスタッフの維持・確保に加え、やはり地域との連携協力体制の整備が1つのポイントとなってくるでしょう。なかでも地域からの受け入れについては、規模の制限もあって、まだまだ完全とはいえない面もあります。これらを克服しながら、患者さんにとって安全かつ安心で、質の高い医療を提供できるよう、今後も最大の努力を図っていくつもりです。

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