第7回 地域医療連携と関西労災病院の特色

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平成23年1月公開
(※ 取材対象者及び内容は公開当時のものです)

より安全で効率的な医療提供を目的として、医療機関の地域連携が進んでいます。国が推し進める「医療機関の機能分化と連携の促進」に基づくもので、「病院完結型」から「地域完結型」医療への移行ともいえます。
こうした医療提供の変化を患者さんにご理解いただくために、『地域医療連携と関西労災病院の特色』と題して、地元の尼崎市をはじめ阪神地域の地域医療連携や、高度先進医療について林紀夫病院長と大園健二副院長の対談を行いました。
(対談:2010年12月)

地域医療連携と関労の役割

――まずは「地域医療連携」の概要についてうかがいます。

林院長:

医療が高度化・専門化するにつれ、医療機関の機能分化が必要となってきました。それぞれの医療機関の特色や規模に応じて、適切かつ効率的な医療提供を行っていこうというものです。それには、病院単体ではなく、地域の医療機関が連携して医療を担っていく必要があります。
具体的にいえば、病気などで病院に行く場合、患者さんはまず地域の開業医の先生(かかりつけ医)に診てもらいます。そこで大病が疑われたり、緊急の治療が必要だと診断されれば、高度先進医療が受けられる大きな病院への紹介状(または診療情報提供書)を書いてもらうことになります。紹介状があることで、事前申込みで予約ができるほか、患者さんの病状を迅速に把握でき、かかりつけ医で行った検査を重複して行う必要もありません。薬剤アレルギーなども事前に知ることができます。
このように地域連携は患者さんにとってメリットがあり、同時に医療機関にとっても安全で質の高い医療を行ううえで有効なものです。

――地域医療連携における関西労災病院(以下:関労)の役割は。

大園副院長:

急性期病院として、緊急を要する患者さんの治療を行います。その後、病状が安定した患者さんはご自宅で療養いただきます。必要であれば開業医の先生のもとで治療を継続していただくなり、あるいは療養型の病院に転院していただくというケースもあります。いずれの場合でも、関労での治療経過を各医療施設に提供し、スムーズな連携体制をとることができます。

――地域医療連携について、患者さんは十分に理解しているのでしょうか。

林院長:

ホームページや広報誌等でお知らせしてきていますので、徐々に浸透していると思います。関労では定期的に市民公開講座を開催し、患者さんや地域の方々に対して医療情報を提供しております。今後は市民公開講座においても地域医療連携についてお伝えしていくよう努めていきます。

「病診連携」に加えて「病病連携」へ

――地域の医療機関との連携構築は、どのようにされていますか。

大園副院長:

地域医師会との協力関係、あるいは医師同士の個人的なネットワークなどにより、連携を拡充しています。関労の場合は、地元・尼崎市はもちろんのこと、その立地から西宮市や芦屋市、伊丹市、宝塚市、大阪市など近隣地域とも深い関係があります。そのため尼崎市内はもとより近隣地域にも目を配り、広域な連携体制づくりを心がけています。
これには、より多くの開業医の先生に関労の特色を知っていただく必要があります。そのため2010年度内には開業医の先生方を対象にした広報誌「かんろう.ねっと」を発刊。定期的な情報発信により、関労の医療に関する最新情報をお伝えしていきます。
今後は診療所との連携だけではなく、もう少し大きな病院との連携を強めていこうとしています。「病診連携」に加えて「病病連携」への体制強化といってもいいでしょう。

林院長:

関労はこれまで地元・尼崎市の“市民病院的”役割を担ってきた面もあります。しかし、医療事情の変化とともに、関労もその特色を生かした機能分化が必要になってきました。そういう意味では、情報発信を含め、ネットワークの拡充は不可欠です。これを具現化するためには、患者さんのご理解や提携先の病院との協力関係がますます重要になると考えています。
医療の進歩は著しいものがあります。いまでは早期に然るべき治療を受けることにより、その病気の予後は非常に良くなります。関労は2009年12月に兵庫県知事から「地域医療支援病院」として承認されました。そのため、かかりつけ医から紹介を受けた患者さんの積極的な受け入れはもちろんのこと、地域の開業医の先生方に対して当院の医療施設や患者さんの治療に関する医療情報を提供していくという役割も担っています。

最新の医療設備と優秀なスタッフ

――医療分野での関労の強みを、お話しいただけますか。

林院長:

一つの強みとして、循環器系疾患の治療が挙げられます。心臓病や脳卒中などに代表される疾患で、血液の流れが阻害されることで発症します。関労は2010年3月に全国でもまだ希少な最新のCT装置(320列CT)を導入しました。これによって、カテーテル検査を行わなくても心臓(冠動脈)を調べることが可能になっています。もちろん高度な医療装置は、それを十分に扱うことのできる医療スタッフがいてこそ威力を発揮します。関労にはこうした医療スタッフがそろっています。
がん診療についても厚生労働省から「地域がん診療連携拠点病院」の指定を受け、専門的で質の高いがん医療を提供しています。実際、PET-CT装置の導入で、より正確な検査が可能となりました。この装置を使い、的確な画像検査ができる医師は全国でも限られていますが、関労の医療スタッフの厚みがこれを可能にしています。さらに、複数の診療科にまたがる検討会を開き、がん患者の状態に応じた適切な治療を提供しています。 このほか労災病院という特性上、整形外科は以前から関労の強みです。

大園副院長:

関労の手術件数は年間7000件にものぼっています。この数は地域ではもちろん、全国的にも有数といえますが、2010年度内には4室を増設し、計13室体制を確立します。これにより、受け入れ体制も整うことになります。
また、病棟によっては空いている病床がある場合もあります。そこで、病院全体で全病床を一元管理しながら、院内の施設や設備を有効活用していきます。

林院長:

地域連携だけではなく、院内の連携も不可欠です。医療の高度化にともない、専門分野での診断や治療が欠かせません。その分、診療科の枠を越えた医療の連携もきわめて重要になっています。関労はこうした医療の変化に対応した体制づくりを行っています。

――医療スタッフの確保は、スムーズに進んでいますか。

林院長:

関労が最新の医療設備をつぎつぎに設置導入しているのは、先にお話した通りです。大学病院を除けば、全国でもトップレベルといえるでしょう。その結果、手術件数も高いレベルを維持し、医師にとっては好ましい環境にあるといえます。そのため優秀な医療スタッフが集まってくることになります。医師だけでなく看護師も優秀です。実際、病院見学にこられた看護師の多くが、当院を気に入り、勤めていただいています。現在の関労は、こうした好循環の中にあると考えています。

「地域医療連携センター」設置に向けて

――多くの患者さんが入退院されます。そのマネージメントは

大園副院長:

紹介システムがあるとはいえ、来院時のルートはさまざまです。同様に、退院時のルートもさまざまです。病院としてはこれをうまくコントロールしていく必要があります。これまでは地域医療室がこの役割を担ってきました。しかし、より効率的な入退院管理システムづくりを指向し、この1年間、プロジェクトを組んで「ペイシェント・フロー・マネージメント」(PFM)の導入について検討を重ねてきました。
それを受けて、従来の地域医療室の機能を拡充した「地域医療連携センター」(仮称)の設置に向けて動き出しています。センターで一元的に病床管理を行い、病床の効率的な運用を図ることで、患者さんの来院・退院ルートをうまくコントロールしていきます。 言わば絶え間なく飛行機が離発着する巨大空港にあって、その管制塔のような役割を果たす部署と考えていただければ、わかりやすいでしょう。同センターには権限を持ったスタッフを配置することで、これまで以上に連携病院の開拓も進めていきます。さらに、患者さんが入院された時点で、退院後はどこで診てもらうのかまでを見据えて、入退院のシステムづくりを行っていきます。

――センター構築に向けての課題はありますか。

大園副院長:

少し細かくなりますが、紹介を受けて入院された患者さんの経過を、紹介元の診療所等にうまくフィードバックできるような仕組みが必要だと考えています。しかし、患者さんによって紹介元の医師との関係もさまざまです。すべての患者さんに対して同じような対応という訳にはいきません。こうした現実的な課題を克服しながら、個々の患者さんに最適な入退院のシステムをつくっていく予定です。

――最後に病院の今後の方向性をうかがえますか。

林院長:

急性期医療に的を絞った病院づくりを目指しています。これには、関労の強みを活かしつつ、これまで以上に病院の機能強化を図っていく必要があります。同時に、病院の“敷居”を低くしていかなければならないと考えています。つまり、紹介システムをもっと活用していただけるように、関労の特色を地域の医療機関をはじめ、より多くの人に理解いただくことが重要です。そうすることで、地域医療連携がよりスムーズに稼動し、地域の医療環境が整います。そのなかにあって、高度先進医療を担う急性期病院として、自らの役割を果たしていくつもりです。

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