本当に治療が必要な患者さんへのカテーテル治療

はじめに

狭心症を代表とする虚血性心疾患の治療に対して薬剤溶出性ステントが使用されるようになり再狭窄率が劇的に減少しました。しかし、薬剤溶出性ステント留置後は最低1年間の二剤併用抗血小板療法が必要とされており、二剤併用抗血小板療法に伴い出血性合併症のリスクが増加します。さらに致死率の高いステント血栓症の問題もまだ解決されていません。

このように薬剤溶出性ステント留置はそれ自体が一定のリスクをもたらすことが明らかになり、必要のないステント留置は避けなければなりません。そこで近年冠動脈の生理機能的評価が特に重要視されています。この虚血診断には当院では心筋血流SPECT検査とpressure wire (PW) を用いた冠血流予備比(fractional flow reserve: FFR)測定を行っています。今回はこの中でFFR測定の重要性についてご説明させて頂きます。

FFRとFAME study

FFRはPWを冠動脈内に挿入して測定されます。冠動脈の狭窄遠位部圧と狭窄近位部圧の比がFFRです。ですので狭窄がなければFFR = 1となります。非侵襲的検査との対比により、FFRが0.75未満であると虚血ありと診断されます(1)。近年では診断のための冠動脈造影時にFFRを測定することができます (図1)。

2009年に発表されたFAME studyでは、FFRを測定しFFRが0.80以下であればカテーテル治療(PCI)を施行する群(FFR-guided PCI group)と造影上狭窄があればPCIを施行する群(Angiography-guided PCI group)で主要心事故の発生率を比較しており、Angiography-guided PCI groupが有意に心事故発生率が高値であるとの結果が報告されています(図2:文献2より改変)。
これはAngiography-guided PCI groupの中に狭窄が有意でないにも関わらず「無駄な」治療がされた症例が含まれていることが原因と考えられます。またFFR-guided PCI groupの方が使用ステント数が有意に少なく、医療コストも有意に低価格であったと報告されています(3)。ですので、造影のみで判断するのではなくFFRの値に基づいた治療が主要心事故を減らすことができ、さらに医療コストの面でも有用であると考えられます。

図1:冠血流予備量比(Fractional Flow Reserve:FFR)

図2:FAME stusy

2015年の当院でのFFR測定施行症例の内訳

2015年は当院では139症例に対してFFRの測定を行いました(図3)。そのうち61%の症例でFFRが0.80より大きい値でした。つまりこれらの症例は現時点ではカテーテル治療を行う必要はありませんので、ステント治療などは行いませんでした。無駄な治療を行わずに経過をみています。

図3:2015年のFFR施行症例

虚血診断に基づく治療(症例提示)

FFR測定が治療部位同定有効であった当院の症例を提示いたします。症例は76歳女性の患者さんです。労作性狭心症にて当院紹介受診となった方です。8か月前に右冠動脈遠位部にPCIが施行されましたが、1か月前より労作時胸痛が認められていました。狭心症の再発を疑い冠動脈造影検査を施行しました。右冠動脈のステント留置部は良好に開存していましたが、右冠動脈中間部と左前下行枝中間部に中等度狭窄が認められました(図4 黒矢印)。引き続きPWを用いてFFRを測定したところ、右冠動脈遠位部で0.88、左前下行枝遠位部で0.65との値でした。ですので、左前下行枝の治療のみを行い、ステント留置とバルーン拡張で良好な開大を得ました(図5)。術後胸部症状も消失しました。以後胸痛の再発なく経過しています。PWを使用することによって必要最低限の治療のみをすることができ、FFR測定は有用であったと考えられます。

図4:冠動脈造影

図5:左前下行枝に対するPCI

最後に

当院ではPWや心筋シンチグラムを用いて虚血診断を重要視し、機能生理的評価に基づく、つまり「本当に治療の必要な部位」に対してのみに治療を行うPCIを心がけています。

参考文献

  1. Pijls NH, De Bruyne B, Peels K, Van Der Voort PH, Bonnier HJ, Bartunek J Koolen JJ, Koolen JJ. Measurement of fractional flow reserve to assess the functional severity of coronary-artery stenoses. N Engl J Med. 1996 Jun 27;334(26):1703-8.
  2. Tonino PA, De Bruyne B, Pijls NH, Siebert U, Ikeno F, van’ t Veer M, Klauss V, Manoharan G, Engstrøm T, Oldroyd KG, Ver Lee PN, MacCarthy PA, Fearon WF; FAME Study Investigators. Fractional flow reserve versus angiography for guiding percutaneous coronary intervention. N Engl J Med. 2009 Jan 15;360(3):213-24.
  3. Tonino PA, Fearon WF, De Bruyne B, Oldroyd KG, Leesar MA, Ver Lee PN, Maccarthy PA, Van’t Veer M, Pijls NH. Angiographic versus functional severity of coronary artery stenoses in the FAME study fractional flow reserve versus angiography in multivessel evaluation. J Am Coll Cardiol. 2010 Jun 22;55(25):2816-21.

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