心房細動の治療 – 関西ろうさい病院(兵庫県尼崎市)地域医療支援病院・がん診療連携拠点病院
独立行政法人 労働者健康安全機構 関西ろうさい病院 心房細動

心房細動の治療

心房細動の治療概要

心房細動と診断されたときには、まずアブレーションで根治を目指すのか、薬物治療で対症療法を行うのかを検討します。最近はアブレーションで根治を目指すことが多くなっています。症状の強い方、若年者、心不全を合併した方、根治して薬をやめたい方などはアブレーションを特にお勧めします。一方で、心房細動の罹患期間が長くアブレーションが困難な場合や高齢などのために体力が落ちている場合には、薬剤治療を一生涯にわたって行うこともあります。また脳梗塞リスクが高いにもかかわらず抗凝固薬を服用できない患者さんにはカテーテル左心耳閉鎖術で心房内血栓ができる左心耳という場所を閉じてしまう方法もあります。 
アブレーションが特に推奨される患者さん像

薬物治療

薬剤治療では、心房細動による脳梗塞を予防するための抗凝固療法が重要です。大多数の心房細動の方はカテーテルアブレーションで根治しない限り、抗凝固薬を一生涯継続する必要があります。また心房細動発作を抑制したり心拍数を調節したりすることで心房細動による不快な症状を和らげるための抗不整脈薬治療があります。さらに心房細動が持続する場合には、続発する心不全を予防・治療するための薬剤を服用することもあります。

心房細動における薬物治療の位置づけは、症状を和らげたり、脳梗塞や心不全などの合併症を起こりにくくしたりすることです。ここでは代表的な薬物治療について説明します。ここではすべての薬品名を先発薬で記載しています。ジェネリック薬品では名前が変わりますので、薬局・インターネット等で先発薬品名を確認してください。

抗凝固薬

リクシアナ、エリキュース、プラザキサ、イグザレルト、ワーファリンなど

抗凝固薬は血液の固まる機能を抑制することで、心房内血栓がつくられることによる脳梗塞などの血栓塞栓症を予防する効果があります。心房細動患者さんの多くは抗凝固薬を服用することが推奨されています。具体的には年齢75歳以上、高血圧、糖尿病、心不全、脳梗塞の既往のいずれかに該当した場合、脳梗塞を発症するリスクが高いので、抗凝固薬を服用したほうが良いとされます。

効果

脳梗塞などの血栓塞栓症リスクを3分の1から半分程度に下げることができます

注意すべき副作用

出血性副作用が起こりやすくなります。くも膜下出血や脳出血など頭での出血はとても危険ですが、最近の抗凝固薬では起こりにくくなっています。注意が必要なのは消化管出血で、服用開始後はしっかりと便を観察するようにしてください。便が赤や黒くなっていれば消化管出血している可能性がありますので、すぐに処方した医師へ連絡してください。歯肉や鼻出血、皮下出血など比較的軽微な出血は、よほどひどくなければ服用を継続し、外来受診時に主治医に相談してください。

 

抗凝固薬の用法用量、特徴

心房細動停止薬

心房細動を止める、あるいは次の心房細動発作を起こりにくくする作用のある薬です。いずれも服用後しばらく効果を発揮しますが、服用をやめれば元に戻ってしまいますので、心房細動を根治する効果はありません。心房細動によるつらい症状を抑えたり、心不全を発症しないようにするためのお薬で、主に発作性心房細動の患者さんに使います。

サンリズム、タンボコール、ベプリコール

効果

服用後4~8時間程度心房細動発作を起こりにくくする、あるいは心房細動発作を止める(有効率30〜50%程度)。

注意すべき副作用

心室性不整脈の誘発(1%以下)、徐脈など、内服開始後ふらつきや失神が見られるようならばすぐに服用を中止して、処方医に連絡してください。高齢者や心機能、腎機能が低下している患者さんで副作用が出やすくなっています。

アンカロン

効果

服用後、心房細動発作を起こりにくくする作用と心房細動であっても心拍数を下げる効果の両方を持っています。心機能が低下した患者さんでも使用できます。

注意すべき副作用

徐脈、眼の角膜色素沈着、甲状腺機能異常、間質性肺炎(1%以下)など。アンカロン特有の副作用があり、特に間質性肺炎は命に係わる副作用です。服用中に咳が続くようであれば、はやめに処方医に相談してください。長期間使う場合はできるだけ少量で継続することが副作用を予防するうえで重要です。

心拍数調整薬

心房細動による動悸や息切れの症状は、心拍数が早すぎることが原因となっていることがあります。そのような場合には心房細動の心拍数を抑える薬剤を使用します。主に持続性心房細動で使用します。発作性心房細動では、発作そのものを抑制する薬剤のほうが有効です。効果が強すぎて脈が遅くなりすぎる徐脈や血圧が低下しすぎた場合には、立ち眩みやふらつきなどの副作用がみられることがあります。

メインテート、アートストなど

交感神経の動きを抑えて心拍数を抑制します。心拍数調整薬としては広く使われるものです。メインテートは1日1回で効果が持続しますので、使いやすい薬剤となります。心機能が低下している患者では、少量から慎重に扱う必要があります。

ワソランなど

心臓内の電気の伝わり方を悪くして心房細動による頻拍を改善します。効果が強いですが、4〜6時間程度しか持続しないので1日3回程度服用する必要があります。また心機能が低下した患者では使えません。

ジゴキシンなど

心機能を低下させずに心拍数を低下させる効果がありますが、あまり大きな効果は期待できません。また長期間使用する場合は、中毒症状を起こさないよう血液検査を定期的に行う必要があります。

アブレーション治療

カテーテルアブレーションは心房細動を根治するために行われます。安全性や有効性が高まった現在では、心房細動と診断された方の多くが受けられます。ここではその概要と治療の流れを説明させていただきます。詳しく知りたい方は、詳細情報として別ページを設けているのでそちらをご覧ください。

アブレーション治療とは

心臓は流れてくる電気に反応して動くのですが、心房細動では心房で電気の流れが乱れてしまっているために震えるような動きになってしまうのです。多くの心房細動の患者さんにとって、左心房にある肺静脈という血管から出てくる異常な電気信号が心房での電気の乱れの原因となっています。カテーテルアブレーションでは左心房にある肺静脈の周りの心臓の壁を焼灼(火傷や凍傷で筋肉にダメージをあたえ、電気を流れなくすること)することで、心房の電気の乱れを正し、心房細動を治療します。 

アブレーション治療の概要

入院期間

3泊4日を基本としますが、場合によっては短縮や延長も可能ですのでご相談ください。

入院中のスケジュール(3泊4日の場合)

費用

1か月の医療費の一定額以上は健康保険から支給される高額療養費制度を利用すれば、入院・術前検査を含め10万円未満となることが多いです(加入者の所得によって変わります)。
高額療養費制度の詳細は、厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」をご覧ください。
https://www.mhlw.go.jp/content/000333279.pdf

アブレーション方法

当院では高周波アブレーション、クライオバルーンアブレーション、レーザーバルーンアブレーションが実施可能です。

麻酔方法

高周波アブレーションは全身麻酔、クライオバルーンアブレーションは軽い鎮静をお勧めします。ただしご希望があればクライオバルーンアブレーションでも全身麻酔を選んでいただけます。入院当日の医師との面談時にお申し付けください。

手術時間

クライオバルーンアブレーションでは30~45分 
高周波アブレーションでは60~90分 

成功率(心房細動の再発がない確率)

1回の治療で心房細動の再発がなくなる確率です。患者さんの様々な要因によって変わりますが、概ね以下のようになります。
発作性心房細動では80~90%
持続性心房細動では60~80%
 

合併症の危険性

重篤な合併症として、脳梗塞、心タンポナーデ、食道関連合併症が知られていますが、安全性が高まった最近のアブレーションでは実際にはほとんど起こりません(関西労災病院での発生率0.1%以下)。

退院後の注意事項

歩行や車の運転などの日常生活や負荷の大きくない仕事はしていただいて構いません。
自転車などの足を大きく曲げる動作は1週間程度控えてください。
暴飲暴食、アルコール、激しい運動は1か月程度控えてください。

退院後の不快な症状

退院後に以下のよう不快な症状が現れることがあります。

カテーテル穿刺部の内出血

術後数日して、穿刺部周辺の皮膚が紫色になることがあります。これは内出血の治癒過程で見られるもので、問題ありません。穿刺部の腫れや痛みが強くなるようであれば、病院まで連絡ください。

胸の不快感、倦怠感、食欲不振

手術の疲れ、やけどの影響によるもので、多くは数週間で改善します。ひどくなるようであれば、病院まで連絡ください。

急性再発

アブレーション後3か月以内(特に術後1~2か月)に心房細動を再発する方が多くいらっしゃいます。これは急性再発と言って、やけどによる炎症が原因のことが多く、3カ月以内に自然に治ることが多いです。必要に応じて抗不整脈薬を使用して不快な症状を取り除くようにします。

再アブレーション

残念ながら1回のアブレーションで心房細動が治らない患者さんがおられます。そのような場合には2回目以降の治療を提案させていただく場合があります。ただし1回目の治療から3か月程度は心房細動の治り具合を慎重に評価させていただきます。

術後の抗凝固薬

心房細動の再発がない場合、3~6か月後に中止できることが多いです。ただし脳梗塞の危険性が高い患者さんでは継続をお奨めしています。

関西労災病院のアブレーション 10のこだわり

 

1.強固な肺静脈隔離で治療成績にこだわる
心房細動再発の主たる原因は、隔離した肺静脈から異常電流が漏れ出す(再伝導)してしまうことです。当院で用いている高周波カテーテルナビゲーションシステムCARTO3では焼灼の強さを正確に評価することができ、安全で強固な肺静脈隔離を行うことができます。もちろん術者の技量も重要でアブレーション治療経験の豊富な医師が責任をもって治療させていただきます(当院のデータでは、高周波カテーテルアブレーションを行った後、2回目を行うことになった患者さんの肺静脈再伝導率は15%以下とかなり低くなっています)。またクライオバルーンを用いた肺静脈隔離もこれまでの1,000例以上の経験をもとに安全に強固な隔離ができるようにします。
2.患者さんの心臓に合わせたオーダーメイドアブレーションにより治療成績にこだわる
心房細動の患者さんの心臓の傷み具合はまさに十人十色です。特に持続性心房細動では肺静脈隔離だけでは十分でない患者さんも多くいらっしゃいます(当院のデータでは持続性心房細動では30%程度の患者さんで肺静脈隔離以外の追加治療を必要とします)。患者さん個々の心臓の状態を詳しく調べるため、最新の治療機器であるCARTO3システムを用いて心臓内の心電図を1000か所以上記録して、心房細動の原因となり得る異常な電気の流れる部位を調べ、その結果に基づいて必要なアブレーションを追加します。
3.合併症を極限まで減らし、患者さんの安全にこだわる
安全はすべてに優先する、というのが関西労災病院不整脈科の大原則となる考え方です。すべての治療工程において事故が起こらないよう、事故のタネを徹底的に排除するようスタッフ一同取り組んでいます。また治療中の放射線被ばくも極限まで減らすことに成功しています。
4.治療時間と入院期間にこだわる
治療時間が長いと合併症が多くなったり患者さんの負担が増えたりすることになります。また入院期間が長くなることは、患者さんの大切な時間を奪ってしまうことになります。関西労災病院では、肺静脈隔離だけで済むような患者さんにおいては、短時間で正確かつ安全なアブレーションが可能なクライオバルーンを用いて30分ほどで治療が完結します。また条件を満たせば、1泊2日入院も可能です。
5.全身麻酔など患者さんの安楽にこだわる
心房細動アブレーションは焼灼中の胸の痛みがつらかったと術後に患者さんからよくお叱りを受けました。そこで関西労災病院では麻酔科と連携して、兵庫県下ではいち早く全身麻酔の導入を行いました。アブレーション中は麻酔の専属医が麻酔管理を行うので、安心して全身麻酔を受けていただけます。また術前の心房内血栓検査として行われることの多かった経食道心エコー検査も術前のCTで代用できるようにして、苦痛を出来得る限り低減しています。
6.総合病院として全身管理にこだわる
心房細動の患者さんは甲状腺疾患や糖尿病など心臓以外の臓器に問題を抱えていることも多くあります。総合病院である関西労災病院であれば、アブレーション周術期もそれぞれの疾患についての専門医がサポートします。また万が一、アブレーションでの合併症があっても心臓外科や脳卒中治療医が24時間体制でスタンバイしていますので安心です。
7.最新の治療機材にこだわる
安3次元マッピングシステム、X線透視装置、アブレーションカテーテルなど使用する機材は日本で使用可能な最新のものを常に導入し続けています。このことは治療成績向上、安全性向上、被爆低減や手技時間の短縮などにつながっています。
8.スタッフの技術・熱意にこだわる
関西労災病院では2016年から不整脈科を創設して、アブレーションに関わるすべてのスタッフの知識・技術向上に取り組んできました。心房細動アブレーションのプロフェッショナル集団が、皆様に安心して治療を受けていただけるよう準備をしております。またスタッフ全員が患者さんの気持ちに寄り添った医療をご提供できるよう心がけています。不安なこと、分からないことはお気軽にご相談ください。
9.治療内容の説明にこだわる
アブレーション治療を受けるにあたっては、その内容をしっかりと理解していただくことが重要であると考えています。関西労災病院では外来、入院時、治療後に主治医などから治療内容について説明させていただく時間をしっかりと作ります。またアブレーション治療は患者さんの心臓の状態、併存疾患、年齢や社会的状況に応じて最適な方法をとる必要がありますので、詳細に術前検査、問診をさせていただきます。何か分からないことがあれば、いつでも声をかけてください。
10.心房細動の患者さんの人生にこだわる
個々の患者さんによって心房細動を発症するに至る経緯、心房細動の症状などが異なります。さらにほかに抱える病気や人生における価値観なども当然ながら変わります。関西労災病院では、それぞれの患者さんに合った治療方法を提案させていただくことを通して、心房細動をもった患者さんの人生を支えていきたいと考えています。私たちの目標は、「心房細動患者さんに、心房細動のない方と同じような人生を送ってもらうこと」です。

カテーテル左心耳閉鎖術

心房細動では心房がけいれんするために、心房内の血流がよどんで血栓ができやすくなります。血栓が脳の血管を詰まらせると、脳梗塞(心原性脳塞栓症)を起こしてしまいます。心房細動が原因でできる血栓の約9割が左心房のなかの「左心耳」でできると言われています。

 

心房細動の患者さんには、血液をサラサラにするお薬(抗凝固薬)を用いて血栓ができないようにする治療が主として行われていますが、出血のリスクが高いなどの理由によって、長期間の抗凝固薬の服用が困難な患者さんが一部におられます。また抗凝固薬を服用しているのに脳梗塞を起こしてしまう方もいます。そういった方に対してカテーテルを用いて左心耳にフタをして血栓ができないようにする治療がカテーテル左心耳閉鎖術です。

 

左心耳閉鎖術は、カテーテルという細い管を足の付け根から入れ、『WATCHMAN FLX』という治療器具を用いて左心耳を閉鎖することができるため、痛みが少なく入院期間も短い体に優しい治療法となります。脳梗塞リスクが高いにもかかわらず、出血性合併症などのために抗凝固薬を長期間服用できない心房細動患者さんや抗凝固薬を服用しているのに脳梗塞を発症した患者さんがこの治療法の対象となります。

 

当院は2019年の国内導入時から施設認定を受けており、すでに実施した多くの症例で抗凝固療法の中止に成功しています。

左心耳閉鎖デバイスWATCHMAN FLXが心耳を閉鎖している様子

 

左心耳閉鎖デバイス WATCH MAN FLX 留置アニメーション

 

左心耳閉鎖デバイスをカテーテルから展開している様子。適切な場所に留置できるよう慎重に場所を調節している。
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