概要
大動脈瘤とは?
身体の中で一番太い血管が、部分的に瘤のように大きくなる病気です。
大動脈瘤は多くの場合、自覚症状がなく静かに進行し、大きくなればなるほど破裂の危険性が高まります。万が一破裂した場合には、命に関わることが多いため、早期発見と適切な治療がとても大切です。当院では、心臓血管外科を含めた多職種チームが協力し、患者さん一人ひとりに合わせた最適な治療を安心して受けていただけるように、日々の診療を行っております。

無症状で経過される方が多いです。
胸部大動脈瘤であれば、「食べ物が飲み込みにくい」、「声が出しにくい、声がかすれる」などの症状が出ることがあります。
腹部大動脈瘤であれば、「お腹の表面から脈打つ瘤に触れる」ことがあります。
この病気の難しいところは、多くの患者さんは無症状ということです。健診や他の病気の検査で偶然見つかることが少なくないということです。生来健康だから大丈夫とは限らず、定期的な通院がない人こそ精密検査を受けられる機会が少なく、気づかないうちに病気を持っている可能性があります(65歳以上の男性の20人に1人は大動脈瘤と言われています)。大動脈瘤を治療せずに放置していると突然破裂する危険性があり、破裂した多くの場合は死に至る恐ろしい病気ですが、適切な時期に治療を行えば破裂を回避することができます。
受診されるきっかけとしては、ほかの病気を精査される際に偶発的にみつかるケースや、健康診断で撮影されるレントゲンで診断されることもあります。
無症状の方が多い一方で、胸部大動脈瘤が拡大してくると、「食べ物が飲み込みにくい」、「声が出しにくい、声がかすれる」などの症状が現れることもあります。また、腹部大動脈瘤の場合は、大きくなるとお腹の表面から脈打つ瘤に触れることができ、それに気づいて発見に至ることもあります。また、脆弱となった大動脈の壁が裂けてしまう「大動脈解離」という状態になることもあり、背中などの強い痛みにより発見されることもあります。大動脈瘤が血圧に耐えきれず破裂した場合は、突然の強い痛みや急激な血圧・意識の低下を伴い、一刻を争う状況となりますので緊急治療が必要になります。

検査
どのような人が、どういった検査を受ければいいですか?
血管が長年の高血圧や喫煙、加齢によってもろくなることで発症するので、大動脈瘤を患っている可能性が高くなるのは、
- 65歳以上の男性
- 65歳以上の喫煙女性
- 第一度近親者に家族歴を有する者
とされています。このような方は、腹部超音波検査によるスクリーニングが推奨されており、治療を行うにあたってはCT撮影による精密検査を行う必要があります。
また、破裂と関係の深いものとしては、女性、喫煙、高血圧、肺気腫、家族歴が挙げられています。
診断には画像検査が欠かせませんが、まずは超音波検査を受けてみましょう。更なる精査が必要な場合は、CT検査(造影CT)を追加で受けていただき、大動脈瘤の大きさや形、位置を詳しく評価し、瘤の直径や拡大のスピードを確認し、手術が必要かどうかを判断します。

治療
動脈瘤の治療法を教えてください
適切な時期に手術(開腹下人工血管置換術、ステントグラフト治療)が必要です。
手術の方法は、開腹下人工血管置換術とステントグラフト内挿術があります。双方ともに、メリット・デメリットがありますので、いずれの治療法にするかは専門医とよく相談して決定してください。
治療の選択肢
治療は瘤の大きさ、場所、形、患者さんの全身状態などをもとに決めます。
- 経過観察(保存的治療)
- 開腹・開胸手術
- ステントグラフト治療(EVAR/TEVAR)
瘤が小さい場合や成長が遅い場合は、すぐに手術をせず、定期的に画像検査を行いながら経過を見ます。同時に、血圧管理や禁煙など生活習慣の改善を行います。
瘤の部分を切除し、人工血管に置き換える手術です。
長期的に安定した治療効果が得られますが、ステントグラフトの治療と比べると体への負担が大きい手術になります。
足の付け根の血管からカテーテルを入れ、瘤の内側に「筒状の人工血管(ステントグラフト)」を留置する治療です。
開腹せずに行えるため、体への負担が少なく、高齢の方にも適応できることが多いです。
ただし、瘤の形や場所によってはステントグラフト治療のみでは治療遂行が困難となる場合もあります。
術後もCTで定期的に経過を確認し、再発や瘤内への血流(エンドリーク)がないかをチェックする必要があります。

ステントグラフト治療について

ステントグラフト治療は、手術時間が短く身体にかかる負担が少ないため、高齢の方にとっても日常生活の質を落とすことなくできる体に優しい治療法です。
胸部では肋骨を切らずに、腹部ではお腹を切らずに治療でき、患者さんの身体にとっては優しい治療法と言えます。所要時間も短いので、身体にかかる負担が少ないのが特徴で、早期に社会復帰することが容易となり、特に高齢の方にとっては今までできていた日常生活の質を落とさずに退院できる治療です。
具体的には、人工血管にステントといわれるバネ状の金属を取り付けた新型の人工血管で、これを圧縮して細い鞘の中に収納して使用します。両足の付け根の動脈より、皮膚を切開することなくカテーテルを挿入し治療を行います。ステントグラフトが収納されたカテーテルを動脈内に挿入して、動脈瘤のある部位まで運んだところで、収納されているステントグラフトを折り畳み傘のように展開します。
展開されたステントグラフトは、金属バネの力と患者さん自身の血圧によって拡がり血管壁に張り付くので、外科手術のように直接縫いつけなくても自然に固定されます。大動脈瘤は切除されず残りますが、ステントグラフトにより蓋をされることで動脈瘤への血流が無くなり、次第に小さくなる傾向がみられます。たとえ瘤が縮小しなくても、拡大を防止することで破裂の危険性がなくなります。
入院後の計画
当院では入院後の計画としては、通常であれば下記のとおりとなります。
横にスワイプできます| 入院期間 | 6-8日間 |
|---|---|
| 手術時間 | 1-2時間 |
| 麻酔方法 | 全身麻酔 |
| 安静期間 | 手術当日はベッドで安静に過ごしていただきます。 術式にもよりますが、翌日からは院内での行動に制限ありません。 また、退院後から仕事に復帰いただけます。 |
| 手術の痕 | 両足の付け根に5mm程度の傷口ができますが、見た目にはわからない程度です。 |

当院の特色
関西労災病院では、大動脈瘤・大動脈解離に対して、循環器内科・心臓血管外科を中心とした多職種チームが協力し、安全で質の高い治療を行っています。
- Type IIエンドリークへの対応
- 大動脈解離への対応
- 破裂性大動脈瘤への対応
ステントグラフト治療(EVAR/TEVAR)のあと、瘤の中に血液が流れ続けることをエンドリークといいます。その中でもType IIエンドリークは瘤から分岐する血管からの逆行する血流によるものを指し示します。
緊急性はありませんが、放置すると瘤が再び大きくなる原因となるため、注意が必要です。
当院では、術前の精査で行ったCT検査にて大動脈瘤から分枝する血管を同定し、可能な限り術前に前もって塞栓術を行います。これを行うことによって術後のType IIエンドリークを予防することができます。
また、術後も定期的にCT検査などにより瘤径の増大がないかどうかを外来診療にて確認を行います。瘤が大きくなっていた場合はその原因精査を行い、エンドリークによるものと考えられた場合には、必要に応じてカテーテルによる追加治療を行っています。
このように、当院では手術を行うにあたってできるだけ体への負担を少なく、長期的に安定した結果を得られるよう工夫しています。

大動脈解離は、大動脈の壁が裂け、突然の背部痛や血圧低下を発症する病気で、さまざまな臓器への血流を低下させ、場合によっては命に関わることがある恐ろしい疾患です。
発症直後の対応がとても重要でありますが、当院では、救急搬送の段階から心臓血管外科・循環器内科が協力し、すぐに検査と治療方針を決定する体制を整えています。
上行大動脈解離(Stanford A型解離)の場合は、緊急手術による治療を行い、
下行大動脈解離(Stanford B型解離)の場合は、血圧コントロールに加えて、必要に応じてステントグラフト(TEVAR/EVAR)による早期治療を行っています。
この早期介入により、慢性期の拡大や破裂を防ぐことを目指しています。
また、急性期を乗り越え退院された後も、大動脈解離の増悪がないか、大動脈瘤(解離性大動脈瘤と言われています)がないかなど定期的に検査を行うことで早期発見に努めております。


破裂性大動脈瘤は、突然の大出血を伴う非常に危険な病気です。
数分から数時間で命に関わるため、一刻を争う対応が必要になります。
当院では、24時間365日対応可能な緊急手術体制を整えており、救急外来到着後ただちに検査・診断を行い、状況に応じて緊急でステントグラフト治療または開腹手術を迅速に選択します。
手術後は集中治療室で全身管理を行い、合併症の予防にも力を入れています。
実際の症例
1.腹部大動脈瘤に対してステントグラフト治療を行った症例
ご年齢や胃がんに対する開腹手術歴があること、CT画像での解剖学的な条件より、ステントグラフト内挿術による治療が望ましいと判断のうえ施行しました。術後経過は良好で、翌日より歩行・食事を再開し、入院4日目には退院されました。現在も手術前術後の定期診察・検査に外来へ通院されておられ、動脈瘤は縮小し、順調に経過しています。


2.胸部大動脈瘤に対してチムニー法併用しステントグラフト治療を行った症例
本症例は、弓部大動脈に動脈瘤を有しておりました。従いまして、図1のように①全弓部置換術 ②トータルデブランチ + TEVAR (胸部ステントグラフト内挿術) が標準術式となり、これら術式はいずれも開胸が必要となります。しかしながら、患者さんはポリオ後症候群 (ポリオ感染後10年以上経って発症し、進行性の筋力低下・萎縮・疼痛を認める疾患で、筋肉に余分な負担をかけることで症状が悪化する) を併存疾患として有しておられ、開胸術後のリハビリ過程での筋疲労に伴う、呼吸筋萎縮・低下が危惧されるため、非開胸下での低侵襲治療が必要であると考えられました。

そこで、予め頚部バイパス (右腋窩-左腋窩-左頸動脈) を行ったうえで、図2のように大動脈ステントグラフト本体に並走する形で、総頚動脈へもステントグラフトを挿入し、脳還流を確保する術式であるチムニー法を併用したステントグラフト内挿術を施行しました。この術式の場合、頚部バイパスは体表の手術となるため開胸は不要となり、標準術式と比較して各段に侵襲が低くなります。この低侵襲治療により短時間での治療が可能であり、手術室にて術後抜管に成功、早期のリハビリテーションも可能となり、約2週間の入院で元気に独歩退院されました。
- 中枢側接合部を上行大動脈に置かず、開胸を要さない。
- 上行大動脈にLandingを置くことで、中枢側のLanding長を十分とることが可能となる。


3.傍腎動脈腹部大動脈瘤に対してチムニー法併用しステントグラフト治療を行った症例
本症例は、ステントグラフトが留置される腎動脈の近傍に動脈瘤を有しておりました。通常の留置方法ではステントグラフトが圧着する部分(中枢ネック)が短いため、動脈瘤への血流の漏れ(エンドリーク)が出現するリスクが高くなります。そのため第一選択は開腹による人工血管置換術となりますが、患者さんは80歳代と高齢であり、大腸癌手術後で開腹歴がありましたため、動脈瘤治療チームにて検討し、先述のチムニー法を併用したステントグラフト内挿術を施行しました。全身麻酔下にて両側腎動脈にステント留置し、中枢ネックを延長した上でステントグラフト治療を施行することで、約1週間の入院で元気に独歩退院されました。



4.胸腹部大動脈瘤に対してチムニー法併用しステントグラフト治療を行った症例
本症例は腹部臓器を灌流する腹腔動脈と上腸間膜動脈、両側腎動脈が分岐した部位で嚢状の動脈瘤を認めておりました。通常であれば開胸開腹により胸腹部大動脈人工血管置換術もしくは開腹による腹腔動脈、上腸間膜動脈、両側腎動脈バイパス術とステントグラフト内挿術が選択されます。しかしながら、患者さんは90歳代と超高齢であり、開胸開腹を行わずにチムニー法を用いたステントグラフト治療を行いました。腹腔動脈と上腸間膜動脈は術前のCT検査にて交通が認められておりましたため腹腔動脈に対して塞栓術を行った上で両側腎動脈と上腸間膜動脈に末梢血管用ステントグラフトを留置した上でステントグラフト治療を行い、ご本人の活動度を低下させることなく独歩退院されました。


チーム医療
チーム医療で支える安心の大動脈治療
当院は日本ステントグラフト実施基準管理委員会による施設認定を受けており、動脈瘤ステントグラフト指導医資格を有する医師が複数名在籍しています。さらには、循環器内科・心臓血管外科での合同カンファレンスで診療科の垣根を越えた議論を行い、手術症例・問題症例について日々検討しております。これらカンファレンスや検査結果の内容をもとに、担当医より治療方針について説明させていただき、患者さんと相談のうえ治療方針を決定させていただいております。
大動脈の病気の治療には、心臓血管外科医だけでなく、循環器内科、看護師、臨床工学技士など多くの専門職の協力が欠かせません。
関西労災病院では、これらのスタッフが一つのチームとなって、
「安全で、患者さんの体にやさしい治療」を行っています。
私たちの目標は、
「大動脈瘤があっても、患者さんがこれまでと同じような生活を送ってもらうこと」
です。
もし「大動脈瘤」と診断されても、過度に心配せず、専門医と一緒に今後の方針を立てていきましょう。
私たち関西労災病院のチームが、あなたの安心と健康を全力で支えます。
よくある質問(Q&A)
Q. どのくらいの大きさで手術が必要になりますか?
場所や性別によって異なりますが、破裂の危険性が高いと判断される場合となります。具体的には腹部大動脈瘤で5cmを超えた場合、または短期間で急に大きくなった場合、形が歪で破裂リスクが高いと判断された場合に手術を検討します。
Q. ステントグラフト治療を受けた後は完治ですか?
多くの方で良好な結果が得られますが、再発やエンドリークが起こることがあります。
そのため、術後も定期的なCT検査で経過を確認することが大切です。

