大動脈瘤 – 関西ろうさい病院(兵庫県尼崎市)地域医療支援病院・がん診療連携拠点病院
独立行政法人 労働者健康安全機構 関西ろうさい病院循環器内科

大動脈瘤

大動脈瘤って何ですか?

身体の中で一番太い血管が、部分的にコブのように大きくなる病気です。

動脈瘤は、血液の通り道である動脈の壁が弱くなることで、部分的に瘤(コブ)のように大きくなる病気です。血液の帰り道である静脈とは違い、動脈には心臓から押し出された高い圧がかかっています。そこに、加齢やタバコなどの影響により、動脈の壁が薄く脆弱となることで発症するといわれています。動脈瘤は動脈のどこにでも起こりますが(頭の中にできる脳動脈瘤は、くも膜下出血を起こす病気として有名です)、心臓から全身につながる最も太い血管である大動脈に発症した場合を、大動脈瘤と呼び、発生する大動脈の部位によって胸部大動脈瘤・腹部大動脈瘤・腸骨動脈瘤と分けられています。
大動脈瘤について
どういった症状が出ますか?
無症状で経過される方が多いです。
胸部大動脈瘤であれば、「食べ物が飲み込みにくい」、「声が出しにくい、声がかすれる」などの症状が出ることがあります。
腹部大動脈瘤であれば、「お腹の表面から脈打つ瘤に触れる」ことがあります。
この病気の難しいところは、ほとんどの方が原則として無症状で経過されるところです。生来健康だから大丈夫とは限らず、定期的な通院がない人こそ精密検査を受けられる機会が少なく、気づかないうちに病気を持っている可能性があります(65歳以上の男性の20人に1人は大動脈瘤と言われています)。大動脈瘤を治療せずに放置していると突然破裂する可能性があり、破裂した多くの場合は死に至る恐ろしい病気ですが、適切な時期に治療を行えば破裂を回避することができます。
受診されるきっかけとしては、ほかの病気を精査される際に偶発的にみつかるケースや、健康診断で撮影されるレントゲンで診断されることもあります。無症状の方が多い一方で、胸部大動脈瘤が拡大してくると、「食べ物が飲み込みにくい」、「声が出しにくい、声がかすれる」などの症状が現れることもあります。また、腹部大動脈瘤の場合は、大きくなるとお腹の表面から脈打つ瘤に触れることができ、気づいて発見に至ることもあります。
食べ物が飲み込みにくい、声が出しにくい、声がかすれる
どのような人が、どういった検査を受ければいいですか?

加齢と喫煙が発症リスクです。
まずは超音波検査を受けてみましょう。

大動脈瘤を患っている可能性が高くなるのは、

  1. 65歳以上の男性
  2. 65歳以上の喫煙女性
  3. 第一度近親者に家族歴を有する者

とされています。このような方は、腹部超音波検査によるスクリーニングが推奨されており、疑わしい場合にはCT撮影による精密検査を考慮する必要があります。
また、破裂と関係の深いものとしては、女性、喫煙、高血圧、肺気腫、家族歴が挙げられています。

動脈瘤の治療法を教えてください?

適切な時期に手術(開腹下人工血管置換術、ステントグラフト治療)が必要です。
現在、動脈瘤に対して破裂を予防する治療薬はありません。そのため、適切な時期に手術が必要となります。破裂の危険性が高くなる大きさまでは(例外として、急速拡大や歪な形態のものは早期治療となります)、定期的にCT撮影を行い経過観察します。
手術の方法は、開腹下人工血管置換術とステントグラフト内挿術があります。双方ともに、メリット・デメリットがありますので、いずれの治療法にするかは専門医とよく相談して決定してください。

ステントグラフト治療について

特徴と方法

ステントグラフト治療は、手術時間が短く身体にかかる負担が少ないため、高齢の方にとっても日常生活の質を落とすことなくできる体に優しい治療法です。

ステントグラフト治療は、腹部ではお腹を切らずに、胸部では肋骨を切らずに治療でき、患者さんにとっては体に優しい治療法と言えます。所要時間も短いので、身体にかかる負担が少ないのが特徴で、早期に社会復帰することが容易となり、特に高齢の方にとっては今までできていた日常生活の質を落とさずに退院できる治療です。

具体的には、人工血管にステントといわれるバネ状の金属を取り付けた新型の人工血管で、これを圧縮して細い鞘の中に収納して使用します。両足の付け根の動脈より、皮膚を切開することなくカテーテルを挿入し治療を行います。ステントグラフトが収納されたカテーテルを動脈内に挿入して、動脈瘤のある部位まで運んだところで、収納されているステントグラフトを折り畳み傘のように展開します。

展開されたステントグラフトは、金属バネの力と患者さん自身の血圧によって拡がり血管壁に張り付くので、外科手術のように直接縫いつけなくても自然に固定されます。大動脈瘤は切除されず残りますが、ステントグラフトにより蓋をされることで動脈瘤への血流が無くなり、次第に小さくなる傾向がみられます。たとえ瘤が縮小しなくても、拡大を防止することで破裂の危険性がなくなります。

入院や手術の概要

横にスワイプできます
入院期間 6-8日間
手術時間 1-2時間
麻酔方法 全身麻酔
安静期間 手術当日はベッドで安静に過ごしていただきます。
術式にもよりますが、翌日からは院内での行動に制限ありません。
また、退院後から仕事に復帰いただけます。
手術の痕 両足の付け根に5mm程度の傷口ができますが、見た目にはわからないです。(下図)
手術の痕

実際の症例

腹部大動脈瘤に対してステントグラフト治療を行った症例

この患者さんは80歳代の男性の方で、前立腺肥大のため通院されていた医院で撮影された腹部CTで、大きさが65mmの腹部大動脈瘤を指摘され、治療のため受診されました。
ご年齢や胃がんに対する開腹手術歴があること、CT画像での解剖学的な条件より、ステントグラフト内挿術による治療が望ましいと判断のうえ施行しました。術後経過は良好で、翌日より歩行・食事を再開し、入院4日目には退院されました。現在も手術前術後の定期診察・検査に外来へ通院されておられ、動脈瘤は縮小し、順調に経過しています。
手術前
治療後

胸部大動脈瘤に対してチムニー法併用しステントグラフト治療を行った症例

本症例は、弓部大動脈に動脈瘤を有しておりました。従いまして、図1のように①全弓部置換術 ②トータルデブランチ + TEVAR (胸部ステントグラフト内挿術) が標準術式となり、これら術式はいずれも開胸が必要となります。しかしながら、患者様はポリオ後症候群 (ポリオ感染後10年以上経って発症し、進行性の筋力低下・萎縮・疼痛を認める疾患で、筋肉に余分な負担をかけることで症状が悪化する) を併存疾患として有しておられ、開胸術後のリハビリ過程での筋疲労に伴う、呼吸筋萎縮・低下が危惧されるため、非開胸下での低侵襲治療が必要であると考えられました。

図1 標準治療は、全弓部置換術 or トータルデブランチTEVAR
図2

そこで、予め頚部バイパス (右腋窩-左腋窩-左頸動脈) を行ったうえで、図2のように大動脈ステントグラフト本体に並走する形で、総頚動脈へもステントグラフトを挿入し、脳還流を確保する術式であるチムニー法を併用したステントグラフト内挿術を施行しました。この術式の場合、頚部バイパスは体表の手術となるため開胸は不要となり、標準術式と比較して各段に侵襲が低くなります。この低侵襲治療により短時間での治療が可能であり、手術室にて術後抜管に成功、早期のリハビリテーションも可能となり、約2週間の入院で元気に独歩退院されました。

  1. 中枢側接合部を上行大動脈に置かず、開胸を要さない。
  2. 上行大動脈にLandingを置くことで、中枢側のLanding長を十分とることが可能となる。
術前
術後

傍腎動脈腹部大動脈瘤に対してチムニー法併用しステントグラフト治療を行った症例

本症例は、ステントグラフトが留置される腎動脈の近傍に動脈瘤を有しておりました。通常の留置方法ではステントグラフトが圧着する部分(中枢ネック)が短いため、動脈瘤への血流の漏れ(エンドリーク)が出現するリスクが高くなります。そのため第一選択は開腹による人工血管置換術となりますが、患者様は80歳代と高齢であり、大腸癌手術後で開腹歴があましたため、動脈瘤治療チームにて検討し、先述のチムニー法を併用したステントグラフト内挿術を施行しました。全身麻酔下にて両側腎動脈にステント留置し、中枢ネックを延長した上でステントグラフト治療を施行することで、約1週間の入院で元気に独歩退院されました。

チムニー法を用いた両側腎動脈(赤矢印)へのステント留置
造影CT検査 術前
造影CT検査 術後

胸腹部大動脈瘤に対してチムニー法併用しステントグラフト治療を行った症例

本症例は腹部臓器を灌流する腹腔動脈と上腸間膜動脈、両側腎動脈が分岐した部位で嚢状の動脈瘤を認めておりました。通常であれば開胸開腹により胸腹部大動脈人工血管置換術もしくは開腹による腹腔動脈、上腸間膜動脈、両側腎動脈バイパス術とステントグラフト内挿術が選択されます。しかしながら、患者様は90歳代と超高齢であり、開胸開腹を行わずにチムニー法を用いたステントグラフト治療を行いました。腹腔動脈と上腸間膜動脈は術前のCT検査にて交通が認められておりましたため腹腔動脈に対して塞栓術を行った上で両側腎動脈と上腸間膜動脈に末梢血管用ステントグラフトを留置した上でステントグラフト治療を行い、ご本人の活動度を低下させることなく独歩退院されました。

造影CT検査 術前
造影CT検査 術後

当院の診療体制

当院は日本ステントグラフト実施基準管理委員会による施設認定を受けており、動脈瘤ステントグラフト指導医資格を有する医師が複数名在籍しています。さらには、循環器内科・心臓血管外科での合同カンファレンスで診療科の垣根を越えた議論を行い、手術症例・問題症例について日々検討しております。これらカンファレンスや検査結果の内容をもとに、担当医より治療方針について説明させていただき、患者さんと相談のうえ治療方針を決定させていただいております。

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