独立行政法人 労働者健康安全機構 関西ろうさい病院循環器内科

狭心症・心筋梗塞

狭心症、心筋梗塞とは?

冠動脈とは?

心臓は全身の血液を吸い上げそして全身に血液を送り出す「ポンプ」の働きをしています。この「ポンプ」は1分間に60-100回、1日約10万回の収縮と拡張を繰り返していて、人間が一生を終えるまで絶え間なく働いています。この「ポンプ」は筋肉からできていますが、その筋肉を動かす元となる血液を送っているのが、冠動脈です。
冠のように心臓を覆っているため冠動脈という名前が付けられており、左側に2本、右側に大きな冠動脈が1本あります。左側は2本とお伝えしましたが、左主幹部という大きな幹から左前下行枝(左冠動脈前下行枝)と左回旋枝(左冠動脈回旋枝)に分かれています。右側の冠動脈は右冠動脈と言います。

動脈硬化とは?

この冠動脈ですが、通常では血管に弾力がありプルプルしていて、内腔もツルツルして血流がスムーズに流れます。もちろん血栓という血のかたまりも付かないような仕組みになっています。しかし、加齢や他の要因によって動脈硬化が進むと、血管が硬くなって弾力がなくなり、さらに内腔にコレステロールを中心としたプラークがこびりつきます。他の要因には、喫煙、高血圧症、脂質異常症(高コレステロール血症)、糖尿病などがあります。

狭心症とは?

このプラークが大きくなることによって冠動脈を通る血流が悪くなります。しかし、ある程度血流が悪くなっても安静にしているときは心臓はそれほどたくさんの血流を必要としませんので、何も症状は出現しません。しかし、「階段を上る」、「早歩きをする」、「坂道を上る」、「重たいものをもって歩く」といった心臓がたくさん血流を必要とする行動の際に、冠動脈が狭くなっていると十分な血流を供給することができなくなります。その時に心臓が悲鳴あげて、狭心痛という「胸が重い感じがする」「胸がキューっとする」「肩がこる」といった症状が出ます。「歯が痛くなるような感じ」と言われる患者さんもまれにいます。これが、狭心症という病気です。これらの症状が出ても少し休憩をすると心臓が必要な血流は少なくなりますので、心臓への血流が足りることになり症状はなくなります。

心筋梗塞とは?

心筋梗塞と狭心症とは少し異なります。狭心症はプラークが徐々に大きくなって徐々に血流が減っていくのに対して、多くの心筋梗塞はプラークが突然破れることによってそこに血栓が集まってきて、突然血流が完全に途絶えるか、途絶える寸前の状態になります。心臓にとっては突然血流がなくなるわけですので、じっとしていても狭心症と同じ症状(「胸が重い感じがする」「胸がキューとする」など)が現れます。血流が足りない状態が続いていますので、すぐに病院で治療を受ける必要があります。

出典:インフォームドコンセントのための心臓・血管病アトラス
狭心症と心筋梗塞について

 

診断は?
当院の狭心症・心筋梗塞に対する検査の流れ
当院での狭心症または心筋梗塞の検査の流れを下記に示します。
狭心症や心筋梗塞が疑われる患者さんに対しては、問診、血液検査、胸部レントゲン、心電図、心エコー図などのスクリーニング検査を行い、心筋梗塞(急性冠症候群)が疑われる場合には緊急入院していただき、即座に心臓カテーテル検査で冠動脈造影を行います。狭心症が疑われる場合には糖尿病や高血圧症などの狭心症のリスク因子がある場合は冠動脈CTを、腎機能異常や造影剤アレルギーなどがある場合は負荷心筋シンチグラフィ検査を行い、異常があれば冠動脈造影や冠血流予備量比(FFR、後述)の測定を行い、重症度、治療適応の評価を行う流れになります。
心筋梗塞が1分1秒急ぐ病態であるのに対して、狭心症は比較的安定した病態ですので、このような検査の流れの違いがあります。
カテーテル検査は、主に肘の上腕動脈または手首の橈(とう)骨動脈または鼠(そ)径部の総大腿(たい)動脈の血管から行います。麻酔はカテーテルを入れる場所の局所麻酔ですので、意識はあります。診断のための冠動脈造影検査は約30分程度です。治療適応は判断する必要がある時は引き続きFFRの測定を行います。心筋梗塞などで治療を急ぐときは引き続きカテーテル治療を行います。
治療は?
カテーテル治療と冠動脈バイパス術
狭心症と心筋梗塞の治療には、循環器内科の行うカテーテル治療と心臓血管外科の行う冠動脈バイパス術があります。カテーテル治療は、局所麻酔で行える侵襲度の低い治療で、狭心症の場合一度の入院期間も2泊3日から3泊4日と短期間です。それに対して冠動脈バイパス術は複雑な冠動脈病変に対しても一度の手術で完全血行再建ができ、また長期的な開存率はカテーテル治療よりも優れています。どちらの治療法が患者さんにとってより良い治療法かを判断するためには、患者さん一人一人の背景や病変の状態を考える必要があります。当院では循環器内科と心臓血管外科が心臓血管センターとして緊密な関係にあり、毎週合同カンファレンスを行い、症例検討を行っています。それ以外にも患者さんにとってより良い治療を行えるよう密に連携をとっています。

治療について

カテーテル治療とは?

出典:インフォームドコンセントのための心臓・血管病アトラス

カテーテル治療は正式名称を「経皮的冠動脈形成術」、英語でPCI(ピーシーアイ)と言います。主に手首の橈骨動脈(とうこつどうみゃく)または鼠径部(そけいぶ)の総大腿動脈(そうだいたいどうみゃく)からカテーテルを入れます。カテーテルを入れる部位は患者さんや病変の状態によって総合的に判断をします。
ガイディングカテーテルという土台のカテーテルを冠動脈の根元に持っていきます。そこからガイドワイヤーという細いワイヤー(0.3556 mm径)を病変部に通過させます(①)。
それに沿って“モノレール”のようにバルーンカテーテルを持っていきます(②)。
バルーンを膨らませて病変部を物理的に広げます(③)。
バルーンは回収して(④⑤)
その後にステントという金属の筒を入れます(⑦-⑨)。
現在ではほぼ100%薬剤溶出性ステントという薬を塗ったステントを使用します。ステントは一生冠動脈の中に残ったままです。血管がしっかりと広がって血流がよくなったことを確認して術終了とします。通常の病変であれば術時間は約1時間です。

カテーテル治療後に注意することは?

治療がうまくいってもそれですべてが終わりというわけでありません。いくつか注意するべきことを提示させていただきます。

ステント血栓症について

ステント血栓症

冠動脈の狭窄に対してステントが留置されますが、人間にとってはこのステントは金属の「異物」です。ですので、生体反応としてその異物に対して大きな血栓(血のかたまり)がついてしまうと血流を落としてしまうことになります。これが「ステント血栓症」という大きな合併症です。最近の薬剤溶出性ステントは性能がよくなり、このステント血栓症の頻度は3年で1%程度とかなり減っていますが1、それでもひとたび起こすと心筋梗塞や突然死を起こす可能性のある重篤な病気です。

参考文献

  1. Tada T, Byrne RA, Simunovic I, et al. Risk of stent thrombosis among bare-metal stents, first-generation drug-eluting stents, and second-generation drug-eluting stents: results from a registry of 18,334 patients. J Am Coll Cardiol Intv. 2013;6:1267-1274

抗血小板薬について

このステント血栓症を予防するために抗血小板薬という血をサラサラにするお薬が2種類、一定期間必要です。内容としては、アスピリン(商品名:バイアスピリンなど)に加えて、プラスグレル(商品名:エフィエント)またはクロピドグレル(商品名:プラビックスなど)がよく使用されています。一定期間とお伝えしましたが、この期間は以前は最低1年間でしたが、薬剤溶出性ステントの進歩によってその期間はどんどん短くてなっています。患者さんの状態や、治療内容、また他の内服薬の内容などによって期間は1か月から12か月程度で決定されます。またこれより短い場合や逆に1年以上必要となる場合もありますので、詳しくは主治医とご相談ください。また2剤の抗血小板薬を服用している間は、出血がしやすい状態になっていますので、転倒など出血を起こすことをしないように十分に気を付けてください。

再狭窄について

一度入れたステントを取り出すことはできず一生ものとなりますが、ステントの中にまた新しいプラークが起こることによって血管が細くなることがあります。これが再狭窄という現象です。金属のステントだけですと高率にこの再狭窄が起こっていましたが、薬剤溶出性ステントの登場によってこの薬剤が再狭窄を抑制することによりその頻度は1年間で10%未満にまで改善しました。しかし、依然として生じうる病気ですので、治療後に一定期間が経過した後に、治療前と同じような症状がおこる場合にはこの再狭窄を疑って詳しい検査が必要となります。そして何よりも再狭窄を防ぐためにできることはしっかりと行う必要があります。禁煙は必須事項です。糖尿病や高血圧症、脂質異常症といった冠危険因子をしっかりと調整することが重要です。どうしてもお薬が増えてしまいがちですが、これらの冠危険因子を調整するためのお薬は重要です。さらに適度な運動やバランスのとれた食事を行うことも大事です。

Topics

TOPICS 1本当に治療が必要な患者さんへのカテーテル治療

はじめに

狭心症を代表とする虚血性心疾患の治療に対して薬剤溶出性ステントが使用されるようになり再狭窄率が劇的に減少しました。しかし、薬剤溶出性ステント留置後は一定期間の二剤併用抗血小板療法が必要とされており、二剤併用抗血小板療法に伴い出血性合併症のリスクが増加します。さらに致死率の高いステント血栓症の問題もまだ完全には解決されていません。
このように薬剤溶出性ステント留置はそれ自体が一定のリスクをもたらすことが明らかになり、必要のないステント留置は避けなければなりません。そこで近年冠動脈の生理機能的評価が特に重要視されています。この虚血診断には当院では心筋血流スペクト検査と血管内圧測定用センサー付ガイドワイヤー(プレッシャーワイヤー)を用いた冠血流予備量比(FFR)測定を行っています。今回はこの中でFFR測定の重要性についてご説明させていただきます。

冠血流予備量比(FFR)測定

図1:冠血流予備量比(FFR)

FFRはプレッシャーワイヤーを冠動脈内に挿入して測定されます。冠動脈の狭窄遠位部圧と狭窄近位部圧の比がFFRです。ですので狭窄がなければFFR = 1となります。非侵襲的検査との対比により、FFRが0.75未満であると虚血ありと診断されます1。近年では診断のための冠動脈造影時にFFRを測定することができます (図1)。

2009年に発表されたFAME試験では、FFRを測定しFFRが0.80以下であればカテーテル治療(PCI)を施行する群と造影上狭窄があればPCIを施行する群で主要心事故の発生率を比較しており、造影上狭窄があればPCIを施行する群が有意に心事故発生率が高値であるとの結果が報告されています2。これはこの群の中に狭窄が有意でないにも関わらず「無駄な」治療がされた症例が含まれていることが原因と考えられます。またFFRが0.80以下であればPCIを施行する群の方が使用ステント数が有意に少なく、医療コストも有意に低価格であったと報告されています3。ですので、造影のみで判断するのではなくFFRの値に基づいた治療が主要心事故を減らすことができ、さらに医療コストの面でも有用であると考えられます。

2019年の当院でのFFR測定施行症例の内訳

図2:2019年のFFR施行症例

2019年は当院では177症例に対してFFRの測定を行いました(図2)。そのうち125例(71%)の症例でFFRが0.80より大きい値でした。つまりこれらの症例は現時点ではカテーテル治療を行う必要はありませんので、ステント治療などは行いませんでした。無駄な治療を行わずに経過をみています。

虚血診断に基づく治療(症例提示)

FFR測定が治療部位同定有効であった当院の症例を提示いたします。症例は76歳女性の患者さんです。労作性狭心症にて当院紹介受診となった方です。8か月前に右冠動脈遠位部にPCIが施行されましたが、1か月前より労作時胸痛が認められていました。狭心症の再発を疑い冠動脈造影検査を施行しました。右冠動脈のステント留置部は良好に開存していましたが、右冠動脈中間部と左前下行枝中間部に中等度狭窄が認められました(図3 黒矢印)。引き続きプレッシャーワイヤーを用いてFFRを測定したところ、右冠動脈遠位部で0.88、左前下行枝遠位部で0.65との値でした。ですので、左前下行枝の治療のみを行い、ステント留置とバルーン拡張で良好な開大を得ました(図4)。術後胸部症状も消失しました。以後胸痛の再発なく経過しています。プレッシャーワイヤーを使用することによって必要最低限の治療のみをすることができ、FFR測定は有用であったと考えられます。
図3:冠動脈造影
図4:左前下行枝に対するPCI

最後に

当院ではプレッシャーワイヤーや心筋シンチグラムを用いて虚血診断を重要視し、機能生理的評価に基づく、つまり「本当に治療の必要な部位」に対してのみに治療を行うPCIを心がけています。

参考文献

  1. Pijls NH, De Bruyne B, Peels K, Van Der Voort PH, Bonnier HJ, Bartunek J Koolen JJ, Koolen JJ. Measurement of fractional flow reserve to assess the functional severity of coronary-artery stenoses. N Engl J Med. 1996;334:1703-8.
  2. Tonino PA, De Bruyne B, Pijls NH, Siebert U, Ikeno F, van’ t Veer M, Klauss V, Manoharan G, Engstrøm T, Oldroyd KG, Ver Lee PN, MacCarthy PA, Fearon WF; FAME Study Investigators. Fractional flow reserve versus angiography for guiding percutaneous coronary intervention. N Engl J Med. 2009;360:213-24.
  3. Tonino PA, Fearon WF, De Bruyne B, Oldroyd KG, Leesar MA, Ver Lee PN, Maccarthy PA, Van’t Veer M, Pijls NH. Angiographic versus functional severity of coronary artery stenoses in the FAME study fractional flow reserve versus angiography in multivessel evaluation. J Am Coll Cardiol. 2010;55:2816-21.

TOPICS 2冠動脈疾患に対するカテーテル治療~患者さんに応じたアプローチ方法の選択~

はじめに

本稿では冠動脈病変に対するカテーテル治療における穿刺部位について当院での方針をご紹介させていただきます。

そうだいたいどうみゃくアプローチととうこつどうみゃくアプローチ

狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患に対するカテーテル治療である経皮的冠動脈形成術(PCI)は、ステントなどの進歩に伴い年々その成績が向上しています。そのPCIのアプローチ法としては橈骨動脈アプローチ(TRI)と総大腿動脈アプローチ(TFI)があります。橈骨動脈アプローチは止血が容易であることや術後の安静臥床が不必要という利点がある一方、使用できるカテーテルの太さが限られることや術後の一定の割合での橈骨動脈閉塞のリスクがあります。総大腿動脈アプローチは総大腿動脈の血管径が比較的大きいことより太いカテーテルを使用することができPCI自体の手技が容易になる半面、出血や血腫を起こしやすいという側面があります。また患者さんは術後数時間のベッド上安静が必要です。
図1:橈骨動脈アプローチと総大腿動脈アプローチ

大規模臨床試験での報告

橈骨動脈アプローチと総大腿動脈アプローチを比較した近年の報告では、PCIの成功率は同等であるものの出血などの血管合併症の頻度は橈骨動脈アプローチの方が少ないとする報告が散見されます1-3。2011年の医学雑誌『ランセット』に掲載された約7,000名の急性冠症候群の症例を橈骨動脈アプローチと総大腿動脈アプローチに振り分けた無作為割り付けの多施設研究であるRIVAL試験1では、主要評価項目(死亡、心筋梗塞、脳梗塞、術後30日までの大出血の複合エンドポイント)では橈骨動脈アプローチと総大腿動脈アプローチに差がなかったものの(3.7% versus 4.0%, P=0.50)、術後30日までの大血腫の頻度(1.2% versus 3.0%, P<0.0001)と処置が必要な仮性動脈瘤の頻度(0.2% versus 0.6%, P=0.006)は有意に総大腿動脈アプローチに多かったと報告されています。

当院での方針

図2:橈骨動脈アプローチ(TRI)と総大腿動脈アプローチ(TFI)の施行割合

上記大規模試験の結果も踏まえることは重要ですが、治療を合併症なく安全に終えることとより再狭窄を起こしにくい丁寧な治療を行うことが最も大切と考えます。ですので、橈骨動脈アプローチ施行可能な症例は橈骨動脈アプローチで行い、緊急症例や複雑病変で太いカテーテルが必要と考えられる症例には総大腿動脈アプローチを行っています。また慢性腎不全や維持血液透析の患者さんで橈骨動脈閉塞を避ける必要がある症例に対しても総大腿動脈アプローチを行っています。当院での最近のPCIにおける橈骨動脈アプローチと総大腿動脈アプローチの施行割合は図2のようになります。

図3:橈骨動脈アプローチで施行したPCIの一例

橈骨動脈アプローチの場合基本的には術後はTRバンドという止血器具を用いて止血を行います。TRバンドは圧迫用のバルーンに空気を注入することにより圧迫止血を行うことのできる止血器具です。術後数時間毎に空気を抜き、術翌朝には完全に抜去します。出血がなければその術翌日に退院ができますので、予定された安定狭心症での入院の患者さんは2泊3日の入院期間となります(急性心筋梗塞の患者さんの場合は異なります)。
それに対して総大腿動脈アプローチの術後は総大腿動脈の血管に問題がなければアンギオシールやエクソシールなどの止血器具を用いて止血を行います。術後は4時間の絶対安静が必要です。それ以降は歩行可能となりますが、術後の出血のリスクを考慮し、術翌々日の退院となります。つまり入院期間は3泊4日となります(こちらも急性心筋梗塞の患者さんの場合は異なります)。
当院で施行しました橈骨動脈アプローチと総大腿動脈アプローチのPCIを一例ずつ図3・4にお示しします。

図4:総大腿動脈アプローチで施行したPCIの一例

左回旋枝中間部の高度狭窄病変(白矢印)。病変長は長いが、比較的治療にシンプルに施行可能と考えられ橈骨動脈アプローチで施行。ステント留置(白点線)にて良好な開大を得ることができた。入院期間は2泊3日であった。
左前下行枝中間部からの慢性完全閉塞病変(白矢印)。右冠動脈からの側副血行路を介したPCIが必要となる可能性など治療の難易度は高いことが予想されたため総大腿動脈アプローチにてPCIを施行。左前下行枝から順行性にワイヤーを通すことができず、右冠動脈を介した逆行性アプローチにてをワイヤーを通すことができた。その後ステント留置(白点線)にて良好な開大を得ることができた。入院期間は3泊4日であった。

最後に

患者さんの状態や病変の複雑さに応じて橈骨動脈アプローチか総大腿動脈アプローチの選択を行っております。患者さんに満足いただけるPCIを提供できるよう今後も励んでまいります。

参考文献

  1. Jolly SS, et al. Radial versus femoral access for coronary angiography and intervention in patients with acute coronary syndromes (RIVAL): a randomised, parallel group, multicentre trial. Lancet. 2011 ;377:1409-20.
  2. Mehta SR, et al. Effects of radial versus femoral artery access in patients with acute coronary syndromes with or without ST-segment elevation. J Am Coll Cardiol. 2012;60:2490-9.
  3. Romagnoli E, et al. Radial versus femoral randomized investigation in ST-segment elevation acute coronary syndrome: the RIFLE-STEACS (Radial Versus Femoral Randomized Investigation in ST-Elevation Acute Coronary Syndrome) study.J Am Coll Cardiol. 2012;60:2481-9.

TOPICS 3高度石灰化病変に対するRotational AtherectomyやOrbital Atherectomyによるカテーテル治療

はじめに

本稿では高度石灰化病変に対する高速回転式経皮的冠動脈形成術というカテーテル治療についてご紹介させていただきます。

カテーテル治療の大敵である「高度石灰化」

図1:全周性の石灰化の血管内超音波画像

冠動脈の狭窄に対するカテーテル治療を行う上で最も重要なことの一つが、ステント(冠動脈の中に留置する金網)をしっかりと拡張することです。十分な拡張が得られないと、ステント血栓症という致死的な合併症やステント留置部位が再度狭くなる再狭窄のリスクが高くなります。通常の病変であればバルーン(風船)で拡張することによって、ステントを十分に拡張することができますが、動脈硬化が進み石灰化が強くなった病変では、バルーンだけでは十分な拡張を得ることができません。カテーテル治療時に使用する血管内超音波の機械では、石灰化の部分は白く検出されますが、全周性の高度石灰化病変は図1のように見ることができます。このような病変に対しては、単にバルーン拡張とステント留置を行うだけでは十分な拡張が得られないことがあります。

高度石灰化病変に対するロータブレーターによるカテーテル治療

高度石灰化病変に対する治療法としてロータブレーターという機械を用いた高速回転式経皮的冠動脈形成術があります(図2)。ロータブレーターは先端に人口のダイヤモンドで作られたドリルを備えていて、1分間に14-20万回の回転行い、石灰病変を削ることができます。この治療はどこの病院でもできるわけではなく、一定症例数以上のカテーテル治療を行っていることや一定症例数以上の手術を行っている心臓血管外科を有していることなどの施設基準があります。当院はこれらの施設基準を満たしており、必要な症例対して以前から積極的に施行しています。最近の症例数と全冠動脈治療症例数に占める割合は図3のようになります。
2019年にロータブレーターによるカテーテル治療の症例数が減少しているのは、後述のダイアモンドバックによるカテーテル治療の症例数が増えているからだと考えられます。

図2: ロータブレーター
図3: 当院のロータブレーターによるカテーテル治療の症例数

高度石灰病変に対するダイアモンドバックによるカテーテル治療

図4: ダイアモンドバック

最近本邦にて使用可能となった高度石灰化病変に対する治療法として、ダイアモンドバックという機械を用いた高速回転式経皮的冠動脈形成術があります(図4)。ダイアモンドバックは先端から6.5mmのところにクラウンと呼ばれるダイヤモンドで構成された部分があり、この部分が1分間に8万回または12万回の回転行い、石灰化病変を削ることができます。ローターブレーターとの違いとして、血管径2.5 mmから4.0 mmを1サイズのみで且つ6Frの小径のカテーテルで治療ができる特徴があります。病変に応じてロータブレーターとの使い分けをしています。

当院での症例

図5:高度石灰化病変に対する治療症例

図5に当院での症例をお示しします。労作性狭心症の患者さんですが、図5Aのような高度石灰化と伴う病変でした。バルーンだけでは十分な拡張を得ることができませんでしたが、ロータブレーターにて切削をしてからバルーン拡張を行うことにより、図5Bのように石灰化部位に亀裂を入れることができました(赤色の矢印)。その後にステント留置を行い良好な開大を得ることができました(図5C)。血管内超音波で血管の大きさを評価することできますが、もともと2.7mm2しかなかった血管が8.7mm2まで広げることができました。この患者さんは総大腿動脈からのカテーテル治療を行いましたが、3泊4日で退院されました。

最後に

ロータブレーターやダイアモンドバックによる高速回転式経皮的冠動脈形成術を施行するには習熟した手技が必要であり、当院でも一部の術者しかそれらの手術を施行していません。またすべての症例に対してロータブレーターやダイアモンドバックを施行する必要はなく、様々な機械を用いてそれらの必要な症例を決定しています。高度石灰化を伴った患者さんにも満足いただけるカテーテル治療を提供できるよう今後も励んでまいります。

TOPICS 4難易度の高い慢性完全閉塞の治療

はじめに

冠動脈の狭窄がゆっくり進むと血管が完全に閉塞してしまいます。急に血管が閉塞すれば心筋梗塞になりますが、徐々に狭窄が進行すればその間に側副血行路という他の血管からの血流の流れが出てきますので、心筋への血流は維持されることになり心筋梗塞にはなりません。しかし、狭心症が生じたり虚血(血流の低下)が大きい場合などには治療の適応となります。この慢性完全閉塞はカテーテル治療の中でも難易度の高い病変とされています。本稿ではこの慢性完全閉塞に対する治療について説明をします。

順行性アプローチ

比較的太いカテーテルが必要ですので、通常は鼠径部(総大腿動脈)アプローチで行います。閉塞している血管に対して直接前からワイヤーを通していく方法です。閉塞しているところを手探りで進めていきますので、様々な種類のガイドワイヤーを使用して閉塞部を通すように行います。複数本のガイドワイヤーが必要となる場合もあります。ガイドワイヤーが通れば後は通常通り、バルーン拡張やステントの留置を行います。

逆行性アプローチ

通常は順行性アプローチでワイヤーが通らなかった場合に行います。慢性完全閉塞を来たした先の血管には他の冠動脈から側副血行路を通じて血流が供給されます。その側副血行路からワイヤーを通していく方法です。当院では逆行性アプローチは手首の血管(橈骨動脈)から行うことが多くなっています。側副血行路を通じて慢性完全閉塞にワイヤーを通すことができれば、後は通常通りバルーン拡張とステント留置を行います。

当院の成績

2019年は当院では35例の慢性完全閉塞の治療を行いました。成功率は91%でした。そのうち、逆行性アプローチを要したものは25%でした。詳細は図1に示します。

図1: 当院での慢性完全閉塞の治療(2019年)

症例提示

症例は70歳代男性です。労作性狭心症の患者さんですが、冠動脈造影で右冠動脈(図2A、黄色矢印)と左前下行枝(図2B、赤色矢印)の両方に慢性完全閉塞を認めました)検討の結果、カテーテル治療にて血行再建を行う方針となりました。 まず右冠動脈の慢性完全閉塞に対して治療を行いました。順行性アプローチにてワイヤーを通すことに成功し(図3A)、薬剤溶出性ステントを留置して良好な開大を得ることができました(図3B)。 1か月程度期間をあけて、左前下行枝の慢性完全閉塞に治療を行いました。順行性アプローチではワイヤーを通すことができず、逆行性アプローチに移行しました。1か月前に治療した右冠動脈からの逆行性アプローチにて左前下行枝へのワイヤーを通すことに成功しました(図4A)。最終的に薬剤溶出性ステントを留置して良好な開大を得ることができました(図4B)。
図2:術前冠動脈造影
図3. 右冠動脈の慢性完全閉塞への治療
図4. 左前下行枝の慢性完全閉塞への治療

終わりに

慢性完全閉塞の治療を行う際には成功率は90%程度とお伝えさせていただいています。そして逆行性アプローチを行う場合など手術時間が3時間を超えるような長時間に渡る可能性もあります。またカテーテル治療以前に冠動脈バイパス術の方が治療方法として優先される場合も多くあります。ハートチームでの検討や患者さん・ご家族と相談して、慢性完全閉塞に対してカテーテル治療を行うかどうかもしっかりと検討させていただきます。

TOPICS 5プラークを冠動脈から取り去る治療である方向性粥腫じゅくしゅ切除(DCA)

はじめに

冠動脈の治療には薬剤溶出性ステントを用いた治療が広く行われています。しかし、金属であるステントが一生体内に残ることになります。そこで、ステントを使用することなく、プラークのみを切除して冠動脈の内腔を大きくする「方向性粥腫切除(directional coronary atherectomy: DCA)」という治療を行うことができます。本稿ではそのDCAの説明を行います。

DCAの構造

DCAを行うためには比較的太いカテーテルが必要となりますので、鼠径部(総大腿動脈)からのアプローチが必要です。DCAの構造は下記になります。

図1. DCAの構造

DCAの手順

DCAの簡単な手順を下記に示します。

  1. 狭窄部位へカテーテルを持ち込み、ハウジング(カッターのでる金属製の円筒)をプラークの方向へ向ける。
  2. 背面のバルーンを拡張し、ハウジング内にプラークを押し付ける。
  3. MDU(モータードライブユニット)を作動させ、回転しているカッターを前へ押し進め、プラークをカットする。
  4. 血管内超音波(IVUS)で確認を行い、残存狭窄部位へ向け追加切除を行う。
  5. 目標のところまでプラークが切除できれば DCAを終了する。
図2. DCAの手順

薬剤溶出性バルーンの併用

DCAでプラークを削り取ってもそれだけでは再狭窄が高率に起こってしまいます。そこで薬剤溶出性バルーン(drug-coated balloon: DCB)という薬剤を搭載したバルーンを膨らませることにより薬剤のみを血管壁に塗布することができます。このDCA+DCBというステントを使用しない治療法が病変によっては有効である可能性があります。

症例提示

症例は60歳代女性です。労作性狭心症にて冠動脈造影検査を施行したところ、左前下行枝の入口部に高度狭窄を認めました(図3、黄色矢印)。検討の結果、カテーテル治療を行う方針となり、またステントを用いると左主幹部から左回旋枝をまたいで留置する必要があり、それによって左回旋枝に影響を与えるリスクがありますので、DCA+DCBで治療を行うこととしました。 右総大腿動脈アプローチにて術を開始しました。ワイヤークロス後、血管内超音波にてプラークの位置を評価して、それに基づきDCAでのプラーク切除を行いました(図4A、白色矢印)。複数回のプラーク切除を行った後に、薬剤溶出性バルーンによって薬剤を血管壁に塗布しました(図4B、赤色矢印)。 最終的にはステントを用いることなく良好な開大を得ることができました(図5)。
図3. 術前冠動脈造影
図4. DCA+DCB
図5. 術後冠動脈造影

最後に

DCAは病変によっては有効な治療方法ですが、血管穿孔などの合併症もありますので、どのような症例に行うかは慎重に検討する必要があります。症例によっては通常の薬剤溶出性ステントの方が適切な症例も多くあります。DCAを行うかどうかは患者さんと十分相談させていただきます。
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