大動脈・末梢血管チーム

末梢血管チームの特長

心臓から全身血管へ

重症虚血肢

関西労災病院循環器内科では、以前より冠動脈疾患(狭心症・心筋梗塞)が治療の中心でありました。これらの疾患は患者さんの生命予後に直結する疾患であることは言うまでもありません。一方で、近年の高齢化や生活習慣病の急増により、他の動脈硬化性疾患(末梢血管疾患)が急増しております。

下肢症状の原因となる閉塞性動脈硬化症、高血圧や多剤降圧薬服用の原因となる粥状硬化性腎動脈狭窄症、無症状でありますが破裂すると致死的である腹部大動脈瘤等は、患者の生活の質(ADL/QOL)に直結する疾患であり、当診療科ではこれらに対しても積極的に治療を施行しております。

内科医としての血管疾患以外へのアプローチ、循環器医としての全身動脈硬化性疾患及び心疾患(心不全・狭心症等)への厳格な管理、そして血管内治療医としての外科的バイパス術困難症例も含めた積極的な血管内治療を行うことが我々の役割と考え、当科では冠動脈疾患も当然のことながら、これらの末梢血管疾患に対しても積極的なアプローチを継続したいと考えております。

末梢血管治療件数の推移

症例数増加は、他の診療科との深い連携

当科での末梢血管内治療件数をお示しします。件数は年々増加傾向であり、平成27年は1,000件に達することが予想されます。この症例数の増加には、①カテーテル治療器具の改善に伴う初期・遠隔期成績の改善 (下肢動脈領域の初期成功率も)、②他の診療科(内科、透析内科・血管外科・形成外科・整形外科・皮膚科)との連携及び信頼関係による症例数増加、③末梢血管疾患を専門とした治療体制の充実が寄与しているものと考えられます。今後も我々のチームでは、本疾患に対する各診療科の連携を強化し、適切なタイミングでの診断・血管内治療を用いて取り組みたいと考えております。

末梢血管治療の戦略

絶対的な症例経験から各患者さんに対してテーラーメイドの治療を

患者さんの病状・生活背景・治療後の家庭環境等は十人十色です。全ての患者さんが同じ治療計画ではうまくはいきません。生産年齢である65歳未満の方には、休職期間ができる限り短くなるように、当日入院、当日カテーテル検査、当日治療、翌日退院(但し大腿部からの治療では2泊3日)を推奨しております。

また、高齢の方の場合には、入院期間も比較的余裕をもって行っております。特に、長期間下肢閉塞性動脈硬化症を罹患された患者さんは、下肢筋肉が疲弊し、血流を改善する治療を行ったとしても、すぐに筋力は改善しません。そのような患者さんでは、カテーテル治療後に積極的にリハビリテーションを行っております。リハビリテーションは、リハビリ専門病棟へ転棟し、理学療法士のカウンセリングに基づき2-3週間の入院期間延長で行っております。このように、絶対的な症例経験が各患者さんに対するテーラーメイドの治療を可能としております。

腎動脈狭窄症

末梢血管疾患に対する臨床研究

臨床研究からの自分たちの診療を見直す

当院では、末梢血管疾患に対する臨床研究を積極的に行っております。その理由は、我々の診療の妥当性が、自施設データの国内・国外発表や英語論文での“他流試合“により客観的に評価され、真の”良質な医療“に繋がると考えているからです。治療成績を開示することなく自施設のみで診療を継続することは、”裸の王様“であります。つまり、各患者さんの長期の転機を含め、それらを評価しはじめて治療として完結したことと考えます。

当末梢血管チームは、国内のみならず、特に海外に向けて、末梢血管での英語原著論文の執筆や、海外学会での発表を行っています。今後も、自施設の治療の妥当性を評価するために、臨床研究に関しても積極的なアプローチを継続していきたいと考えております。

*全国の病院の先生方との連携し、多施設共同研究に対しても積極的に参加しております。

多施設共同研究

カンファレンス

高いモチベーションで、難しい疾患に望む

全身動脈硬化がかなり進行した末梢血管疾患では、治療に難渋することは少なくありません。困難であるからこそ、チームでコンセンサスを得ながら治療を進める必要があります。末梢血管チームでは、以下のカンファレンスにて循環器内科内のみならず、それ以外の診療科や職種間においても患者さんの病状を共有しながら治療方針を決定しております。若いチームですが、お互いに高いモチベーションを維持しながら、より良い治療を患者さんに提供していきたいと考えております。

月曜日(毎週) AM 7:30より循環器内科全体カンファレンス→1週間の治療予定患者さんの確認
火曜日(毎週) AM 7:15より末梢血管チームカンファレンス→抄読会、ケースカンファレンス、1週間の治療予定患者さんの確認
木曜日(毎週) AM 8:00より重症虚血肢カンファレンス→形成外科・看護師・理学療法士・義肢装具士とのカンファレンス
金曜日(1ヶ月に1回) 大動脈瘤カンファレンス→心臓血管外科・放射線科との合同カンファレンス

重症虚血肢カンファレンス

下肢閉塞性動脈硬化症治療の現状

疾患概要

閉塞性動脈硬化症とは、動脈硬化が原因で、下肢の血管(動脈)が、傷んで通り道が細くなった、あるいは完全につまってしまった状態です。歩いたら足が痛くなる、重たくなるといった症状がある場合は、閉塞性動脈硬化症の可能性があります。特に、安静にしていても足が痛い、あるいは足に傷(潰瘍や壊疽)ができて治りにくい場合は、早急な治療を行わなければ、足を大きく切断しなくてはならなくなる可能性があります(重症虚血肢)。

検査

まずは、体に負担のかからない検査(足の血圧測定であるABIや超音波検査)を行います。閉塞性動脈硬化症の可能性が高いと判断される場合は、CT検査や血管造影検査を行います。閉塞性動脈硬化症の患者さんは、狭心症(心臓の血管の動脈硬化)を合併している場合も多いため、必要に応じて心臓(冠動脈)の検査も行います。

治療

足の動脈硬化に対する治療として、内服薬と血行再建術の2つの方法があります。歩いたら足が痛くなる症状の場合、まずは内服薬をためしてみて、効果が乏しい場合には血行再建術を考慮します。

安静でも足が痛い場合や足に傷がある場合には、早急に血行再建術を考慮します。血行再建術の方法として、カテーテル治療とバイパス術の2つの方法があります。それぞれに長所と短所があるため、専門医と相談して治療法を決定する必要があります。当院では、負担の少ないカテーテル治療を積極的に行っており、良好な成績をあげております。

カテーテル治療の様子
カテーテル治療の様子

検査・治療の手順

局所麻酔(針を刺す部分だけに痛み止めを行う)なので、体の負担は少なく、手術中に会話も可能です。手術時間は、治療部位・難易度により異なりますが、およそ30分から2時間程度です。また、皮膚から小さな管(カテーテル)をいれるだけなので、手術終了2~6時間後には、歩くことも可能です。入院期間は約3泊4日です。(ただし、病状の重症度により延長することもあります。)

実際の症例

70代男性 100m程度の歩行で両足に痛みあり

両足にいく動脈が根元から
つまっていました。

ステント(金網)を置いて、
風船で膨らませると、

両足に十分な血流が再開。
足の症状も消失しました。

60代男性 1か月前にできた足の傷が次第に悪化

60代男性 1か月前にできた足の傷が次第に悪化

*最近のカテーテル器具では、足先の先まで風船治療が可能です。

カテーテル治療後の足の傷は・・・・

カテーテル治療後の足の傷は

腹部大動脈瘤に対するステントグラフト治療の現状

疾患概要

腹部大動脈とは、胸部下行大動脈が横隔膜を貫通した箇所から後腹膜腔を下行し、両側の総腸骨動脈に分岐するまでの大動脈を指します。
腹部大動脈径は17~23mmですが、この1.5倍以上になった場合大動脈瘤と呼んでいます。大動脈瘤の90%は動脈壁の動脈硬化性変化に起因します。

大動脈瘤は、一度拡張し始めると自然に縮小することはありません。大動脈壁にかかる張力は、径に比例して増大するので、大動脈瘤径が増すほど拡張するスピードは早くなります。瘤径の増加に反比例して動脈壁厚は薄くなり、最終的には血圧に抗しきれず破裂します。径4cm以下の大動脈瘤の推定年間破裂率は0%と言われていますが、直径5~6cm台で年間約10%、7cmを超えると年間約20%以上になります。破裂した場合の救命率は、10~15%と言われています。破裂と関係の深いものとして、女性、喫煙、高血圧、慢性閉塞性肺疾患(肺気腫など)、家族歴が挙げられています。

また腸骨動脈瘤が併存している場合があります。腸骨動脈瘤は、腹部大動脈瘤に比べて破裂しやすく、破裂した場合の手術リスクも高いので、腸骨動脈径が3cmを超えたら大動脈径に関係なく手術を行う必要があります。

診断・治療法・手術適応

腹部大動脈瘤は、破裂するまでほとんど自覚症状がありません。しかしながら、一旦破裂すると直接死につながる危険性の高い疾患です。腹部大動脈瘤と言われた患者さんはこの点をよく理解し、専門医を受診するようお勧めします。

専門医を受診されたら、まず腹部CTに基づいて治療戦略が立てられます。前述のように5cm未満であった場合は、基本的には経過観察となります。半年から1年に1回、CT検査で拡大の有無を観察することになります。一方、既に5cmを超えておられる方、動脈壁の一部が拡大している嚢状瘤の方は、破裂の危険性が高いとして手術適応になります。

手術の方法は、開腹による人工血管置換術または足の付け根の動脈(大腿動脈)を露出・切開してステント付き人工血管(ステントグラフト)を大動脈瘤内に挿入するステントグラフト手術があります。人工血管置換術は長期成績に優れますが、手術侵襲が比較的高く、術後合併症率が高いという特徴があります。一方、ステントグラフト手術は比較的負担が少ない手術ですが、ステントグラフト挿入可能である大動脈瘤でなければならず、さらに術後の再手術(追加のステントグラフト留置、または外科手術への移行)が必要となる可能性があります。いずれの治療法にするかは専門医とよく相談して決定してください。

当院での治療の流れ

当院に紹介された患者さんの、初診時から治療・退院に至る流れについてお示し致します。

診察日

診察前にエコー検査および血液検査を受けて頂くことになります。これはエコー検査で腹部大動脈瘤の有無を判断し、血液検査で腎機能をチェックして造影剤を使用してもよいかどうかを判断するためです。腹部大動脈瘤についてお話しし、後日、造影CT検査を行います。

当院の造影CT検査では、冠動脈・胸部大動脈・腹部大動脈を同時に撮像し、腹部大動脈瘤の約30%に合併する冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞)、約10%に合併する胸部大動脈瘤を検出します。

CT検査

CT撮像後、問診およびエコー・血液検査・CTの各種検査から得られた情報をもとに、手術適応、術式の選択、合併症の評価を行います。当院では、循環器内科・心臓血管外科・放射線科が、毎週合同カンファレンスを行い、診療科の垣根を越えた活発な議論を行い、手術症例・問題症例について検討しております。

2回目の診察で、担当医より医学的な治療方針について説明があり、患者さんと相談の上、実際の治療方針を決定します。ステントグラフト手術の方針となった場合、その日に手術日・入院日を決めます。

入院日

入院日に、担当医より手術について具体的な説明があります。

手術当日

ハイブリッド手術室にて手技を施行します。手技は、循環器内科および心臓血管外科共同で行います。

まず、両足の付け根の動脈を露出し、ステントグラフトが収納されたカテーテルを動脈内に挿入して、動脈瘤のある部位まで運んだところで、収納してあったステントグラフトを放出します。放出されたステントグラフトは、金属バネの力と患者さん自身の血圧によって拡がり、血管壁に固定されます。最終造影でステントグラフトが目的位置に留置されていることなどを確認し、両足の付け根の傷を閉じて治療を終了します。

術後

集中治療室で経過をみて、問題なければ翌日一般病棟へ行きます。これ以降は、患者さんの希望にもよりますが、1週間ほどで退院して頂き、退院時に確認のCTを施行します。

退院後

定期的な通院を行って頂くこととしております。

当科での治療実績(腹部大動脈瘤)

当院におけるステントグラフト治療の症例数ですが、2007年12月第1例を皮切りに徐々に症例数が増加し、2015年6月時点で240例となっています。

平均年齢77歳で、平均大動脈瘤径は50mm、手術時間は平均2~3時間で、すべての症例において手技を完遂しています。エンドリーク(タイプ1/3)を13例(5.4%)で認め、重篤な合併症としては、入院死亡2例(0.8%)を含む7例(2.9%)に認めております。手技関連死亡・合併症は、各々1例(0.4%)、5例(2.1%)です。

術後遠隔期成績に関しては、現在のところ、瘤関連でお亡くなりになられた方が1例(0.4%)いらっしゃいます。再治療は全体の約7%程度で行っております。

実際の症例

患者さんは83歳男性です。 以前から前立腺肥大のため近くの病院に通っておられ、そこで施行された腹部CTにて腹部大動脈瘤(AAA)径65mmを指摘され、精査目的にて当科を紹介されました。 なお66歳時に胃癌に対する開腹手術を受けておられます。
ご高齢であり、開腹手術の既往があることからステントグラフトの適応と判断し、入院の上ステントグラフト手術を施行致しました。術後経過は良好で、翌日より歩行、食事され入院4日目には退院されました。現在も外来にて術後の定期診察・検査に来られ、瘤は縮小傾向です。

実際の症例
腹部大動脈瘤治療前            治療後

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