心房細動の合併症 – 関西ろうさい病院(兵庫県尼崎市)地域医療支援病院・がん診療連携拠点病院
独立行政法人 労働者健康安全機構 関西ろうさい病院 心房細動

心房細動の合併症

心房細動の合併症

心房細動が怖い病気と言われる所以は、将来にわたって様々な合併症を発症するからです。
ここでは重篤な合併症である脳梗塞、心不全、認知症について、見ていきましょう。
不整脈心電学会資料より引用

脳梗塞

心房細動の方は心臓内の左心房で血液の流れがよどみ、血栓と呼ばれる血液の塊が出来やすくなっています。これが血流に乗って全身へ飛んでいき、脳梗塞などの血栓塞栓症という血栓がつまって体の一部が血流不足から壊死する病気を発症します。特にこの場合の脳梗塞は重症で、半分近くの方が亡くなられるか、寝たきりなどの重度の後遺障害を残します。

 

脳梗塞

血栓の出来やすさは、「血液のよどみ」、「血液の固まりやすさ」、「心臓の壁の傷みの程度」によって決まります。過去の研究データから、脳梗塞などの血栓塞栓症(血栓が詰まって壊死を起こす病気)を発症しやすい患者さんの条件というのがある程度わかっています(図)。特に脳梗塞を起こしやすいことがわかっている項目にひとつでも当てはまる場合は、抗凝固薬を服用することが推奨されています。

特にリスクとなる要因(抗凝固薬が必要)
年齢 75歳以上
高血圧
糖尿病
心不全
脳梗塞の既往
リスクとなる要因
年齢 65~74歳
心筋症
動脈硬化
持続性心房細動
腎機能障害
低体重≦50Kg
左心房の拡大(左房>45mm)

なお、カテーテルアブレーションを行い心房細動の根治が得られれば、多くの患者さんで抗凝固薬を中止できます。ただしアブレーション後も心房細動が残っている場合や、脳梗塞などの血栓塞栓症のリスクが非常に高い患者さん(高血圧や糖尿病などの併存疾患の多い場合や、左房低電位領域が広範な心房筋の傷みが強い場合など)では抗凝固薬を継続することもあります。

脳梗塞は発症直後の数時間であれば、脳血管カテーテル治療で症状が劇的に改善することがあります。脳梗塞の症状があれば、一刻も早く救急要請してください。

心不全

心不全とは心臓のポンプとしての働きが弱くなってしまい、全身に十分な血液が送られなくなる状態を言います。心不全になると階段や坂道を昇ると息切れや倦怠感を感じたり、顔や下腿(すね)が浮腫んだりします。さらに症状が進むと軽い負担でも息切れが出てしまい、日常生活も送れなくなります。ここまでくると入院して治療をする必要があります。

心房細動の患者さんが心不全を発症する過程を説明します。心房細動では右心房と左心房の2つの部屋が動けなくなるのですが、残りの右心室と左心室が普段以上に頑張って働くことで、心臓全体としてのポンプ機能は一旦保たれます。しかしこの心室の頑張りにも限界があり、次第に心室の動きも悪くなってきます。このように心房細動は持続すると心臓全体の働き(心機能と言います)が低下してきます。この心機能の低下がひどければ、心不全を発症します。さらに心房筋の傷みがひどい場合、硬くなった心房を通る血液の流れが滞り心不全を発症することも知られています。
心房細動の方が労作時息切れを自覚する場合や血液検査のNT-pro BNPが125pg/mlを超える場合は、心不全を合併している可能性が高いと考えられます。

心房細動から心不全の発症を予防するために、最も効果的なのはカテーテルアブレーションで心房細動を根治することです。しかし何らかの理由でそれができないときには心不全を発症しないようにあらかじめ手を打っておくことが大切です。そのためには①できるだけ心房細動を持続させないために心房細動を起こりにくくする作用のある薬を使う、②心房細動が持続する場合には心拍数が早くなりすぎないようにする薬を使うなどが重要です。さらに実際に心不全を発症した場合には、むくみを取るための利尿剤や心臓を保護する効果のある薬剤(エンレストなど)を用います。
 
なお、もともと心臓疾患(心筋梗塞や心筋症、弁膜症)などで経過を診ている患者さんが心房細動を発症されることもあります。この場合、もともとの心臓疾患と心房細動が相互に作用し合ってより悪い状態に進むことが多いですので、心房細動に対してカテーテルアブレーションを行って、できるだけ心臓を良い状態に保つことが大切です。

 

認知症

心房細動の患者さんはそうでない方と比べて、認知機能の低下が早いというデータがあります。心房細動によってできる細かな血栓が脳に詰まることで小さな脳梗塞が多発することが原因の一つとされます。さらに心房細動の患者さんは脳の血流が不安定なために脳にストレスがかかり、アミロイドと呼ばれる脳細胞の働きを悪くする物質が貯まることも原因として考えられています。抗凝固薬の適切な使用やカテーテルアブレーションで心房細動を根治することができれば認知機能の低下が抑えられることが期待されます。

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