カテーテルアブレーションの合併症 – 関西ろうさい病院(兵庫県尼崎市)地域医療支援病院・がん診療連携拠点病院
独立行政法人 労働者健康安全機構 関西ろうさい病院 心房細動

カテーテルアブレーションの合併症

合併症について

心房細動アブレーションは心臓へカテーテルを入れて行う処置であるため、合併症のリスクがあります。しかし十分な対策をとることで、リスクを小さくすることは可能です。関西労災病院ではリスクをゼロに近付けるため、スタッフ一同あらゆる努力を惜しまずに取り組んでいます。ここでは心房細動アブレーションの合併症およびそれに対する対策について、説明させていただきます。
心房細動アブレーションの重大な合併症は、脳梗塞、心タンポナーデ、食道関連合併症の3つです。近年のアブレーション治療機器の改善、治療者側の経験の積み重ねにより、これら重大合併症の発生頻度は今日では大幅に低下しています。当院ではすべての検査、治療段階において、安全を最優先するよう徹底しており、これらの重大な合併症が起こらないようスタッフ一同取り組んでおります。

関西労災病院にて2018年~2021年に心房細動に対してカテーテルアブレーションを行った1056人の解析結果

心タンポナーデ

心タンポナーデとは心臓を包んでいる心嚢と言われる空間に血液などの液体が貯留して、心臓を圧迫することで、血液が心臓から拍出されなくなる状態を言います。症状は液体が貯留する速さや量によって変わりますが、一般的には血圧が低下し、強い倦怠感が見られます。特に液体の貯留が急激な場合や大量の場合には、心臓からの血液拍出が大幅に低下して、意識を失ったり生命の危険にさらされたりします。
心房細動アブレーションによって心タンポナーデが起こる原因として、心臓壁の直接的な損傷によるものとアブレーションによる炎症に伴うものがあります。心臓壁の直接的な損傷によるものは、カテーテルが心臓壁に強く接触したり、アブレーション中に心臓壁が100℃以上に加熱された場合に、心臓壁内で形成された水蒸気が破裂したりして、数mmの厚さの心臓壁が破れ、そこから出血して起こります。心嚢内へ大量の血液が一気に流れ出るため、アブレーション中に重篤な状態となることが多いです。すぐに胸からチューブを心嚢に入れて、血液を抜き出す処置をします。また場合によっては手術をして破れた部分を塞ぐ処置が必要となります。一方、アブレーションによる炎症に伴うものは、皮膚の火傷で翌日以降に水膨れができるのに似ています。治療当日の夜や翌日以降にゆっくりと心嚢腔に浸出液と呼ばれるさらさらの液体が貯留します。入院を延長して経過を診るだけで済む場合も多いですが、血圧が低下するなどの症状があればチューブを入れて貯留した液体を排出することもあります。
心タンポナーデは心房細動アブレーションの重大合併症でもっとも頻度が高く、5年ほど前の全国的なデータでもおよそ1~2%(100人に1~2人)で発生するとされていました。しかしカテーテルが心臓壁を押す強さが分かる「コンタクトフォースカテーテル」や発生させる熱量をコントロールできる「最新のナビゲーションシステム」を用いることで最近ではほとんど起こらなくなりました。

脳梗塞

心臓内にできた血栓や空気が血流に乗って脳を始めとして全身に飛んでいくことで、脳梗塞などの全身の塞栓症(血栓などが臓器の血流を低下させて壊死を起こす病気)を発症します。特に脳は血流不足になると壊死を起こしやすく、また麻痺などの後遺障害につながることが多いことから、全身の血栓塞栓症のなかで脳梗塞が最も問題となります。
原因としてアブレーションによる火傷によって血栓が出来た血栓やもともと心臓内にあった血栓が飛んでしまうこと、カテーテルから空気が入った空気が飛んでしまうことなどが挙げられます。
後遺症が残るような脳梗塞は0.1%(1000人に1人)と稀ですが、起こると重大な障害を残すことがあるので、非常に怖い合併症の一つです。
予防のためには術前からしっかりと抗凝固薬を服用しておくこと、術前のCTやエコーで心臓内に血栓が無いことを確認しておくこと、術中の血液凝固を適切にコントロールすること(ヘパリンという点滴で行います)、空気が入らないように細心の注意を払うことなどが大切です。

食道関連合併症

食べたものは食道を通って口から胃まで届けられます。この食道が実はアブレーションを行う心房のすぐ後ろ(背中側)を通っています。このためアブレーションによって食道が高熱や低温にさらされて、障害を受けることがあります。
胃は蠕動運動をすることで食べ物を先へと送っていますが、アブレーションによってこの動きが障害を受けることがしばしばあります。すぐにおなかが一杯になる(膨満感)、食欲がないなどが主な症状で、数週間で自然に治ることが多いですが、数か月持続することも稀にあります。また頻度は低いものの食道粘膜がアブレーションのダメージを受けて、食道潰瘍ができることもあり、ひどい場合には食道と心臓の間に穴ができる左房食道瘻という状態になることもあります(およそ0.01%, 1万人に1人)。左房食道瘻は起こってしまう緊急手術が必要となり、致死率が極めて高いため予防が重要です。
予防のためには食道がある場所の近くでは焼灼はしないということが一番重要ですが、傷ついた食道粘膜が回復する約1か月間は、暴飲暴食をしない(特にお酒は飲まないでください)、胃酸の分泌を抑制するため胃薬を服用するなどを守っていただく必要があります。

穿刺部の血種

アブレーションに用いるカテーテルは足の付け根の血管(大腿静脈)から挿入します。主義が終わるとすぐに抜去しますが、糸による結紮や皮膚を上からガーゼで抑える圧迫止血という方法で止血します。その止血が上手くいかずに、皮膚の下に出血して腫れることを血種と言います。ほとんどの場合、数週間で治りますが、以下に示すような血管そのものの損傷があれば血管修復の手術が必要となります。退院後に血種がひどくなるようであれば、超音波検査(エコー)をして血管損傷の有無を確認する必要があります。

穿刺部の血管損傷

アブレーションに用いるカテーテルを挿入する足の付け根の血管(大腿静脈)やその近くの動脈(大腿動脈やその分枝)を傷つけてしまい、瘤が出来たり動脈と静脈の交通(血液が動脈から静脈に流れ込むこと)を起こすことが稀にあります。場合によっては血管を修復する手術が必要になることもあります。診断は超音波検査(エコー)を用いて行います。

横隔神経麻痺

横隔神経というのは、肺を動かして呼吸するための神経です。クライオバルーンでアブレーションを行った場合、右側の横隔神経が障害を受け、右肺の動きが悪くなることがあります。クライオバルーンによるアブレーションでは5%(100人のうち5人)程度の頻度で起こるとされ、階段を上るなどすると息切れしやすくなりますが、ほとんどの場合数か月以内に改善します。また高周波カテーテルアブレーションでも上大静脈隔離などの手技を行った際には横隔神経麻痺を合併することがあります。
この合併症を避けるためには、心臓に挿入したカテーテルを用いて横隔神経に電気刺激を行い、動きが少しでも悪くなれば焼灼を停止するようにすることが重要です。

全身麻酔に伴う合併症

当院では高周波カテーテルによるアブレーションでは原則として全身麻酔下に実施します。これは患者さんに安楽に受けていただくためだけでなく、治療中の呼吸の乱れや体動を極力抑制することで安全な治療手技ができるためです。
一方で全身麻酔による合併症も起こり得ます。代表的なものは人工呼吸器で空気を肺まで届けるためのチューブを口から挿入するさいに発生する「口腔内損傷」「歯の脱落」などです。また極めてまれな合併症として、誤嚥、喉頭痙攣などの気道トラブルによる低酸素血症もあり、脳などに後遺障害を残すことがあります。当院では安全に全身麻酔を受けていただくために、アブレーションを行う医師とは別に専属の麻酔管理医師が麻酔導入から終了まで責任をもって管理させていただきます。

その他の合併症

上記以外にも様々な合併症が心房細動アブレーションでは起こり得ます。アブレーション中に使用する薬剤による「アレルギー反応」や術後の「嘔気、ふらつき」などです。また心機能が障害を受けている方の場合、アブレーションによる負担で「心不全」を発症し入院期間が延長することもあります。さらに心房細動が長く続いている方の場合、ご自身の心臓を動かすペースメーカの役割を果たしている洞結節の働きが悪く、心拍数が低下してしまう「洞機能不全症候群」などを発症することもあります。

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