施設・機器について
当院のリニアック更新の経緯について
多様ながん種に対応できる総合的アプローチの実現
今回、リニアック(放射線治療装置)の更新に踏み切ったのは、時代に合った治療環境を整えることでより多くの患者さんに質の高い治療を提供するためです。現在のリニアックが設置された当時、1日あたりの最大治療患者数は40名程度を想定していました。
ここ10年、放射線治療を受けられる患者さんは増え続けており、現在では多いときで60名を超える患者さんが当科の治療に訪れます。その間にも、がんの治療技術はますます高度化し、今までの環境では患者さんに適した治療を提供することが難しくなることが予想されました。そこで今回導入したのが、関西では神戸の施設に次いで2番目となるバリアンメディカル社の「true BEAM」です。最大の特徴は、頭の先から足の先までのがんに対して適用可能な優れた治療技術です。これによって患者さんの治療数を増やすだけでなく、より質の高いがん治療ができるようになると期待されます。
” IMRT(強度変調放射線治療)”の治療方法について
副作用のリスク軽減を第一に考える患者さん目線の治療
一番のメリットは、副作用のリスクを軽減できることです。” IMRT”により立体的にがんの範囲をとらえ、正常組織への無駄な照射を避けることが可能になります。医療費の面でも、他の照射法と同じく保険診療で受けることができます。
治療の流れとしては、まず医師による診察と同意書取得の後に、専用のCTスキャナによる撮影を行います。その画像を元に医師をはじめ、医学物理士、品質管理士、治療技師が協力して患者さんの治療計画を作成します。その後、装置の設定確認や人体モデルでのテストを経て、患者さんへの実際の照射治療を開始します。” IMRT”では計画の作成に2〜3日、機械の設定に5〜7日ほどの準備期間が必要ですが、これは正常組織への影響を最小限に抑えた治療を実現するために必要な期間です。この治療によって今まで治せなかったがんを急に治せるようになるわけではありませんが、当院は地域がん診療連携拠点病院として各診療科の優れた治療技術を組み合わせながら、副作用のリスク軽減を第一に考える患者さん目線の治療を目指していきます。
放射線治療による副作用について
“無駄な苦痛を与えない”。それが今のがん治療の基本テーマ
がん治療に対する一般的なイメージとして、まず最初に挙げられるのが副作用の問題です。20年以上前に行われていた1〜2方向からの照射方法では、がんの近くにある健康な内臓や皮膚への照射を避けることができませんでした。それが” IMRT”などの3次元照射技術の積極的利用により正常組織への照射を最小限に抑えることで、副作用の発現頻度は大幅に減少しています。このことにより外来通院で放射線治療を受けるがん患者さんが6割を超えました。慣れない病院のベッドで辛い治療に耐えるのではなく、住み慣れたご自宅からの外来通院で治療を受けていただくために副作用のリスクを減らすという考え方は、”患者さんに無駄な苦痛を与えない”という今どきのがん治療の基本テーマでもあるのです。
放射線治療棟(がんセンター棟)設立について
患者さんのプライバシーに配慮した診療環境
当院は阪神間の地域がん診療連携拠点病院としての役割を担うべく、平成26年3月、放射線治療設備を集約した「がんセンター棟」を病院の敷地内に開設しました。 患者さんにやさしいがん治療の提供を目指すこの施設では、患者さんのプライバシーを守る配慮がされています。放射線治療科の診察室は、今までの2室から3室に増やし、リニアック2室、ガンマナイフ1室を並べて配置しました。2階には「がんセンター」として、がん相談のスペースや地域の先生方との検討会や研修会の開催が可能なカンファレンス室も確保しました。
患者さんにとってのメリットと診察環境への配慮
全診療科・全職種が一丸となって治療に向き合うチーム医療への期待
今回のがんセンター設立による最大のメリットは、病院の施設内でほぼ全部位のがんに対して、標準的な治療を提供できる各診療科の連携が実現されることです。がん治療は、新しい装置1台と医師1名がそろえば解決するものではありません。まずはしっかりとがんの状態を把握し、全診療科、全職種がひとつのチームとなって患者さんにあった正しい治療法を導き出すことが重要です。当院では平成23年よりがん診療関連設備の大規模な拡充を行ってきました。そして今回、「がんセンター」が新設されたことで、がん診療の4本柱とされる「手術」・「化学療法」・「放射線治療」・「緩和ケア」を患者さん一人ひとりに適した治療として提供できる環境が整いました。
一人ひとりに寄り添う”やさしいがん治療”の実現を目指して
これまでも放射線治療は、「切らずに治す」という低侵襲がん治療の代表格とされてきましたが、現在も” IMRT”などの新技術の導入により、患者さんへの侵襲は着実に減少しつつあります。一方、外科手術では内視鏡や新しい手術器具の導入によって切除範囲を減らし、切除後の形成技術も飛躍的に進歩しました。抗がん剤による化学療法においても、その副作用を最小限に抑える薬が続々と登場しています。さらに、がんの進行と治療の副作用による身体や心の苦痛をやわらげる緩和ケアの導入が一般的になってきました。これらはいずれも先ほどお話した”患者さんに無駄な苦痛を与えない”という考え方に基づいています。どれか一つの治療法にとらわれることなく、患者さんの状態とがんのステージを考慮した治療法の選択や、がん治療の4本柱を組み合わせることによって、患者さんに納得していただける結果を生みだすことが重要になります。私たちは今回の「がんセンター」新設を機に、今後はますます、がん関連診療科との連携を深め、患者さんに適した治療法を導き出す”やさしいがん治療”の実現を目指します。
資格
平成10年 | 医学博士(大阪大学) |
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平成11年 | 第1種放射線取扱主任者 |
平成13年 | 放射線腫瘍学認定医 放射線科専門医(治療) |
平成20年 | がん治療認定医機構がん治療認定医 |
略歴
平成5年 | 大阪大学卒業 大阪大学放射線科 |
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平成7年 | 米国Fox Chase Cancer Center 留学 |
平成8年 | 大阪大学微生物病研究所 研究員 |
平成10年 | 大阪大学大学院修了 市立豊中病院 |
平成11年 | 県立粒子線治療センター(仮称)整備室 |
平成13年 | 兵庫県立粒子線医療センター 医長 |
平成19年 | NTT西日本大阪病院 部長 |
平成23年 | 関西ろうさい病院 放射線治療科部長 |