大腸癌の基礎知識

当科での大腸癌治療について大腸癌の基礎知識

大腸癌の基礎知識

  1. 大腸癌とは
  2. 大腸癌の診断
  3. 大腸癌の治療

1.大腸癌とは

大腸は、結腸(虫垂、盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸)、直腸(直腸S状部、上部直腸、下部直腸)、肛門管、肛門と続く約2mの管です。

小腸で栄養分の吸収が行われ、残りの消化物は大腸に送り込まれます。

大腸は、小腸で吸収されなかった水分を吸収し、不要なものを固形状の便として肛門から排泄します。

粘膜の細胞(粘液を作る細胞)が悪性化して癌になります。粘膜のあるところではどこからでも癌ができますが、日本人ではS状結腸と直腸が大腸癌のできやすい部位です。

年齢別にみると大腸癌(結腸・直腸・肛門癌)にかかる人の割合は、50歳代ごろから増加しはじめ、高齢になるほど高くなります。

2.大腸癌の診断

大腸癌は、早期であればほぼ100%近く治ります。

一般的には自覚症状はないので、無症状の時期に発見することが重要です。

大腸癌の精密検査が必要な人を拾いあげる負担の少ない最も有効な検査法が便の免疫学的潜血反応です。食事制限なく簡単に受けられる検査です。40歳を過ぎたらこの検診を受けることをお勧めします。

腫瘍マーカー(CEA、CA19-9)の異常値をきっかけに診断されることもあります。

以下に大腸癌の診断に関係する検査について簡単に説明します。

1)大腸内視鏡検査

肛門から約12mmの内視鏡を挿入して、直腸から盲腸までの大腸を調べます。
検査前に腸管洗浄液を1~2リットル飲んで大腸内をきれいに(前処置)してから検査を行います。

通常、検査は30分程度で終わり、多くの場合大きな苦痛はありません。

おなかの手術後などで腸が癒着している方や、腸の長い方は多少の苦痛があります。眠り薬(鎮静薬)や痛み止め(鎮痛薬)を使用することがあります。

内視鏡を肛門から一番奥の盲腸まで挿入します。盲腸から内視鏡を抜いてくるときに大腸の中を見落としがないように念入りに観察します。ポリープ等の病変を見つけた場合、ポリープをしっかりと観察(青い色素の使用や拡大観察)し、腫瘍・非腫瘍(内視鏡切除の適応である腫瘍性ポリープと切除する必要のないその他のポリープ)を区別し、内視鏡的治療で根治可能な早期癌と手術が必要な病変との区別も行います。悪性か良性かどうかを調べるために病変の一部を採取して顕微鏡で調べます(生検)。必要があれば内視鏡的に切除(内視鏡的ポリペクトミーや内視鏡的粘膜切除術)します。

2)注腸造影検査

食事制限の後、前処置を行います。肛門からバリウムと空気を注入し、X線写真をとります。癌の正確な位置や大きさ、腸の狭さの程度などがわかります。

3)CT、MRI、超音波検査、PETなどの画像診断

治療前には、大腸癌そのものの(原発巣)の進み具合(壁深達度)と肝臓、肺、リンパ節、腹膜への転移を調べて病期(ステージ)分類し治療方針を立てます。

手術後、放射線治療や抗癌剤治療を行っている間や治療後には、肝臓、肺、リンパ節、腹膜、局所に新たな転移がないかを調べます。

注目されている検査はPET検査です。万能な検査ではありませんが、CT、MRI、超音波検査などでは分かりにくい転移・再発部位がPET検査では発見できる場合があります。

4)腫瘍マーカー

血液検査で癌を調べる方法です。

大腸癌では、CEAとCA19-9と呼ばれるマーカーが一般的です。

大腸癌を早期発見できる腫瘍マーカーはまだありません。

腫瘍マーカーは画像検査と組み合わせて転移・再発の指標、治療効果の判定材料として用いられます。定期的に検査を行って数値の変化をみることが大切です。

3.大腸癌の治療

大腸癌の治療の基本は原発巣を切り取ることです。

大腸癌は早い時期に発見すれば、原発巣を切り取ること(内視鏡的切除や手術)でほぼ完全に治すこと(根治)ができます。

肺、肝臓、リンパ節や腹膜などに手術で切り取ることが難しい転移がある場合には、手術だけでなく化学療法(抗癌剤治療)や放射線療法を組み合わせて最適の治療法を考えます。

手術後に転移・再発することもあります。転移・再発の8割以上は術後3年目以内に発見されます。手術後は定期的に(3~12ヶ月毎に)転移・再発を見つけるための検査を受ける必要があります。

転移しやすい臓器は肝臓、肺、リンパ節、腹膜です。切除した部位に再発(局所再発)がおこることもあります。大腸癌は切除可能な時期に転移・再発が見つかれば、転移・再発した部分を切除して根治を期待できます。

手術後5年以上再発がないことが根治の目安です。

治療方法には内視鏡的切除、手術、化学療法、放射線療法があります。

1)内視鏡治療

ポリープをしっかりと観察(青い色素の使用や拡大)し、腫瘍・非腫瘍(内視鏡切除の適応である腫瘍性ポリープと切除する必要のないその他のポリープ)を区別し、内視鏡的治療で根治可能な早期癌と手術が必要な病変との区別も行います。

ポリープを切り取るとき、粘膜には痛みを感じる神経がないので通常痛みを感じることはありません。

小さいポリープの場合は外来で治療可能ですが、大きいポリープでは短期間の入院の上内視鏡治療を行います。

切り取った後病変を十分に顕微鏡で調べることが重要です。
良性腫瘍や粘膜内にとどまる早期癌(再発や転移の危険性がない)は内視鏡的に根治可能です。早期癌の中でも癌がより深く(粘膜筋板を越えて粘膜下層深く)進展していることが判明した場合には、リンパ節転移や再発の危険性が10%前後あるため、追加の手術が必要となります。

A) 内視鏡的ポリープ切除術(ポリペクトミー)

茎のあるポリープにループ状の針金(スネア)を茎の部分に引っかけてから、スネアを締めて高周波電流でポリープの茎の部分を焼き切ります。

B) 内視鏡的粘膜切除術(EMR: Endoscopic Mucosal Resection)

平べったいポリープの場合はスネアがかかりにくいので、ポリープの下に生理食塩水などを注入して周辺の粘膜を浮き上がらせます。この状態でスネアをかけてポリープよりやや広い範囲の粘膜を焼き切ります。

C) 内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD: Endoscopic Submucosal Dissection)

ポリープが大きい場合、これまでは手術か内視鏡下に病変を何回かにわけて切除する方法(分割切除)が選択されていました。

ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術:病変を電気メスで徐々にはぎ取る方法)で大きなポリープも一つの塊として切除(一括切除)できるようになってきています。EMRに比較すると高度な技術が必要です。切除に時間がかかりますし、切り取る面積も広くなるため、入院期間はポリペクトミーやEMRのときより長くなります。

2)手術

早期癌でも内視鏡治療より手術が適切な治療であることもあります。

癌の部分だけでなくリンパ節も一緒に切り取ります(リンパ節郭清)が、血流の関係で癌の部分だけでなく正常な腸を切り取ります。切り取る腸の長さは癌がある位置(結腸か直腸か)や早期癌か進行癌かにより異なります。

A)結腸癌の手術

切除する結腸が長くても術後の機能障害(排便障害、排尿障害、性機能障害)はほとんどおこりません。

B)直腸癌の手術

直腸は狭い骨盤のなかにあり、近くには前立腺・膀胱・子宮・卵巣など排尿や性機能に関わる臓器があります。排便、排尿、性機能など日常生活で重要な機能は、骨盤内にある自律神経によって支配されています。早期の直腸癌では自律神経をすべて温存し、排尿機能、性機能を手術前とほぼ同じくらいに残すことも可能です。進行した直腸癌では、病気を治すために神経と癌を一緒に切り取る手術も必要となります。

直腸癌の手術は、進行度に応じたさまざまな手術法があります。

自律神経温存術、肛門温存術、人工肛門造設術について説明します。

  • 自律神経温存術
    直腸癌を切除する操作をしながら、排尿機能と性機能を支配する自律神経を確認しできるだけ自律神経を残します。神経を全部残せれば、手術前と同じ程度の排尿機能、男性性機能(射精、勃起)を期待できます。進行した癌では、病気を治すために排尿機能や性機能を犠牲にせざるを得ないこともあります。
  • 肛門温存術=永久人工肛門を作らない手術
    以前は直腸癌の多くに永久人工肛門がつくられていました。
    最近では直腸癌の8割は癌を切除し残った腸をつなげることができるようになり、永久人工肛門を作らない手術になっています。自動吻合器という筒状の機械を使って残った直腸と結腸をつなげるようになったことが大きな役割を果たしています。
    癌の肛門側の境界が肛門から4cm以上、歯状線(肛門と直腸との境界)から2cm以上離れていれば、肛門を温存することが可能です。肛門温存術と自律神経温存術を併用し術後の機能障害をかなり減らすことが可能となりました。
    歯状線にかかるより肛門に近い直腸癌であっても早期癌や進行癌の一部で肛門括約筋(肛門を閉める筋肉)を部分的に切除しつつ肛門を温存する手術(ISR:内肛門括約筋切除術、Intersphinteric resection)も行われるようになってきました。
    肛門括約筋の働きが低下した高齢者では肛門を残すことでかえって生活の質が悪くなることもあります。病気の進行度と手術の良いところと悪いところをご理解いただき、年齢、体力、本人や家族の希望などを加味し術式を決定することが重要です。
  • 人工肛門造設術
    肛門に近い直腸癌や肛門にできた癌では、永久人工肛門を造設する腹会陰式直腸切断術が現在でも標準的な手術です。
    肛門括約筋の働きが低下している場合には、肛門温存術を無理に行っても手術の後に排便障害で苦しむ可能性が高いです。肛門を温存できる状況であってもあえて人工肛門造設術を選択することもあります。
    専門看護師(WOCナース)が人工肛門を持つ患者さんの生活支援をきめ細く行っていますのでお気軽にご相談ください。
C)腹腔鏡手術

炭酸ガスでおなかを膨らませて手術をするための空間を確保します。腹腔鏡(カメラ)を入れ、4~5か所に1.5cmほどの穴から約40cmの細長い道具を入れ、画像を見ながら手術を行います。癌を摘出するために1ヶ所だけ約5cmの創を作ります。

腹腔鏡手術は、

  • 体にかかる負担が小さい
  • おなかの創が小さいので創の痛みが少なく、早期の離床が可能
  • カメラで大きく見ることができ、肉眼では見えないものが確認できる
  • 早期退院が可能

などの長所もあります。

大腸癌に対する腹腔鏡手術は1990年代前半から行われています。腹腔鏡手術を行う施設は増えていますが、施設により腹腔鏡手術の対象が異なっているのが現状です。

2014年度版大腸癌治療ガイドラインの記載は、

  • 腹腔鏡下手術には,開腹手術とは異なる手術技術の習得と局所解剖の理解が不可欠であり,手術チームの習熟度に応じた適応基準を個々に決定すべきである
  • 腹腔鏡下手術は,結腸癌および RS 癌に対する D2 以下の腸切除に適しており,cStage 0~cStage Iがよい適応である
    となっています。

また、十分に経験を積んだ大腸癌に対する腹腔鏡手術の専門医が担当すれば、進行癌でも腹腔鏡手術の生存率は開腹手術と同等であると考えられています。

当科では技術認定医である加藤を中心に手術チームを組み、進行癌や手術難易度の高い横行結腸癌に対しても積極的に腹腔鏡手術を行っています。

3)化学療法(抗癌剤治療)

大腸癌の化学療法は、進行癌の手術後に再発抑制を目的とした補助化学療法と根治手術が不可能な進行癌または再発癌を対象に生存期間の延長及び生活の質の向上を目的とした化学療法があります。

  • 補助化学療法はstageIIの再発危険群とstageIIIで全身状態の良好な方が適応となります。治療方法はFOLFOX療法、XELOX療法、5FU+ロイコボリン療法、ゼローダ、UFT+ロイソボリンがガイドラインに示されています。治療効果はFOLFOX療法がその他の療法より生存率を10%程度改善するとされています。ただし副作用や治療方法の複雑さなどの問題がありますので、主治医と相談して治療方法を決定してください。
  • 根治手術が不可能な進行癌に対してはFOLFOX療法、XELOX療法、FOLFIRI療法に分子標的治療薬であるアバスチン、ベクティビックス、アービタックスを組み合わせる治療方法を行います。スチバーガ、ロンサーフの導入も行っています。これも有効性と副作用を十分考慮して最適な治療方法を主治医と相談して決めて下さい。

さらに進んだ治療は治験として導入しています。

4)放射線療法

放射線療法には、手術可能な直腸癌で骨盤内再発の危険性を下げる、癌の縮小や肛門温存をはかるなど手術の補助を目的にした放射線療法と切除が困難な場合に骨盤内の腫瘍による痛みや出血などの症状を和らげること目的とした放射線療法があります。

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