大腸がんの治療方法

大腸がんの治療方法には、内視鏡治療、手術、化学療法、放射線療法があります。

1. 内視鏡治療

小型カメラと切除器具が付いた内視鏡を肛門から挿入して、大腸の内側からポリープを切除する治療法になります。

ポリープを切り取るとき、粘膜には痛みを感じる神経がないので通常痛みを感じることはありません。小さなポリープの場合は外来で治療可能ですが、大きなポリープでは短期間の入院の上内視鏡治療を行います。

内視鏡的ポリープ切除術(ポリペクトミー)

茎のあるポリープにループ状の針金(スネア)を茎の部分に引っかけてから、スネアを締めて高周波電流でポリープの茎の部分を焼き切ります。

内視鏡的粘膜切除術(EMR)

平べったいポリープの場合はスネアがかかりにくいので、ポリープの下に生理食塩水などを注入して周辺の粘膜を浮き上がらせます。この状態でスネアをかけてポリープよりやや広い範囲の粘膜を焼き切ります。

内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)

ポリープが大きい場合、これまでは手術か内視鏡下に病変を何回かにわけて切除する方法(分割切除)が選択されていましたが、近年、内視鏡用の電気メスを用いて病変周囲の粘膜を切開し、病変直下の粘膜下層を剥離して病変を切除する「内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)」という手技が行われるようになりました。

このESDは大きな病変でも一括切除が可能なため、再発のリスクが低く、病変の広がりやがんか否かの正確な組織診断が可能です。これまでは外科手術で行われていた大きな腫瘍も、条件が合えばこのESDという技術を用いると、ひと固まりで腫瘍の摘出が可能で、開腹手術に比べて体への負担は少なく、入院期間もおよそ半分の約1週間に短縮されます。

大腸の壁は非常に薄いため穴が開く危険性が高いので、EMRに比較すると高度な技術が必要となります。そのため、大腸ESDは施設認定基準を満たした施設でのみ行える治療法です。当院は2011年よりESDを開始しています。

2. 手術

早期がんでも内視鏡治療より手術が適切な治療であることもあります。

がんの部分だけでなくリンパ節も一緒に切り取ります(リンパ節郭清)が、血流の関係でがんの部分だけでなく正常な腸も切り取ります。切り取る腸の長さは、がんがある位置(結腸か直腸か)や、早期がんか進行がんかによっても異なります。

結腸がんの手術については、切除する結腸が長くても術後の機能障害(排便障害、排尿障害、性機能障害)はほとんどおこりません。それに対して、直腸は狭い骨盤のなかにあり、近くには前立腺・膀胱・子宮・卵巣など排尿や性機能に関わる臓器があります。排便、排尿、性機能など日常生活で重要な機能は、骨盤内にある自律神経によって支配されています。早期の直腸がんでは自律神経をすべて温存し、排尿機能、性機能を手術前とほぼ同じくらいに残すことも可能です。進行した直腸がんでは、病気を治すために、神経とがんを一緒に切り取る手術も必要となります。直腸がんの手術は、進行度に応じてさまざまな手術法があります。

腔鏡鏡手術

炭酸ガスでおなかを膨らませて手術をするための空間を確保します。腹腔鏡(カメラ)を入れ、4~5か所に1.5cmほどの穴から約40cmの細長い道具を入れ、画像を見ながら手術を行います。がんを摘出するために1ヶ所だけ約5cmの創を作ります。

腹腔鏡手術の長所
  • 体にかかる負担が小さい
  • おなかの創が小さいので創の痛みが少なく、早期より離床が可能
  • カメラで大きく見ることができ、肉眼では見えないものが確認できる
  • 早期退院が可能 など
腹腔鏡手術の短所
  • 病気の部分を直接触れて確認できない
  • 手術中におなかの中全体が確認できない
  • 開腹手術より多少手術時間がかかる など

 

大腸がんに対する腹腔鏡手術は1990年代前半から行われています。腹腔鏡手術を行う施設は増えていますが、施設により腹腔鏡手術の対象が異なっているのが現状です。

2020年度版大腸癌治療ガイドラインの記載は、

  • 腹腔鏡下手術には、開腹手術とは異なる手術技術の習得と局所解剖の理解が不可欠であり、手術チームの習熟度に応じた適応基準を個々に決定すべきである
  • 腹腔鏡下手術は、結腸がんおよび RS がんに対する D2 以下の腸切除に適しており、cStage 0~cStage I がよい適応である

となっています。また、十分に経験を積んだ大腸がんに対する腹腔鏡手術の専門医が担当すれば、進行がんでも腹腔鏡手術の生存率は開腹手術と同等であると考えられています。

 

当院では2007年より腹腔鏡手術を本格的に導入し、画像を立体的に認識できる3D腹腔鏡システムを積極的に活用しています。
週に1回、スタッフが集まり、その週に実施した手術のビデオを見直し、反省点や課題を出し合って技術向上に活かしています。

現在、当科では腹腔鏡手術を第1選択としており、技術認定医である村田、畑を中心に手術チームを組み、他の施設ではあまり行っていない進行がんや手術難易度の高い横行結腸がんに対しても積極的に腹腔鏡手術を行っています。さらにキズの小さな「TANKO手術(単孔式腹腔鏡手術)」や、「内括約筋切除術(ISR)」と呼ぶ肛門温存手術にも腹腔鏡で取り組んでおり、2021年には99%を腹腔鏡手術で行いました。

TANKO手術(単孔式腹腔鏡手術)

へそに開けた約3センチの1つの穴から腹腔鏡と鉗子を入れて行う手術です。傷がへそのみであるため、外見上の傷はほとんどわからなくなります。

ロボット手術

ロボット手術とは腹腔鏡手術を手術支援ロボットであるダビンチ・サージカルシステムを用いて行う手術で、今までの腹腔鏡手術の利点をさらに向上させることができると考えられています。

ロボットの手術支援により、複雑で細やかな手術手技が可能となります。また3次元による正確な画像情報を取得できるため、より安全かつ体への負担が少ない手術が可能となり、次世代の医療改革の一端を担う分野と考えられています。

この手術支援ロボットは欧米を中心に医療用具として認可され、1997年より臨床応用されております。わが国では2009年11月に厚生労働省により薬事承認され、泌尿器科領域に加え、2018年4月にはロボット支援下腹腔鏡下直腸切除・切断術を含む13領域で保険収載となりました。さらには大腸について2022年4月に結腸がん手術も保険収載されたことから全ての大腸がんが保険収載となりました。これまでの自費診療と異なり、患者さんの費用負担も従来の開腹・腹腔鏡手術と同等(健康保険や高額医療費制度も使用可能)となりました。

当院における直腸がん手術の様子

ロボットによる直腸がん手術とは

ロボット支援による直腸がん手術は、通常の腹腔鏡手術をロボット支援下に行うものです。ロボットにより繊細で精密な手術が行えるため、根治性、肛門・排尿・生殖などの機能温存の向上が期待されています。

従来の開腹手術と比較して、通常の腹腔鏡手術と同様に、傷が小さく痛みが軽度で、手術中の出血量が少なく、手術後の回復が早いなどの利点があります。

腹腔鏡手術の場合手術に使う鉗子は棒状のもので、実際の手の動きとは反対方向に動き、さらに直腸のような骨盤の深いところでは実際の手の動きより大きく動きます。

ロボット手術操作の特長
  • 実際の手の動きが鉗子に反映される直感的な操作
  • 多関節を持つ鉗子により人間の手以上の自由な動き
  • 実際の手の動きを最大5分の1まで縮小して鉗子を動かすことによる繊細な動作

 

また、ダビンチを操作するコンソールのモニターでは、解剖構造を10倍まで拡大して、高解像度かつ自然な色調の3D画像で見ることができます。それにより神経の一本一本や細かい血管まで立体的かつ繊細に確認でき、温存すべき臓器を確実に温存することができます。

骨盤の深くて狭いところを操作する直腸がん手術においては、従来の腹腔鏡手術に比べ、より簡単に、より繊細な操作が行えます。このため開腹移行が少ない、出血量が少ない、術後の排尿・生殖機能が早期に回復することが報告されています。

術者の様子

お腹の中の様子

自律神経温存術

直腸がんを切除する操作をしながら、排尿機能と性機能を支配する自律神経を確認し、できるだけ自律神経を残します。神経を全部残せれば、手術前と同じ程度の排尿機能、男性性機能(射精、勃起)を期待できます。進行したがんでは、病気を治すために排尿機能や性機能を犠牲にせざるを得ないこともあります。

肛門温存術=永久人工肛門を作らない手術

以前は、肛門に近い下部直腸がんでは、直腸に加え肛門も切除し、永久的な人工肛門を造る手術がされていました。近年、技術の進歩より、直腸がんの8割はがんを切除し残った腸をつなげることができるようになり、永久人工肛門を造らない手術になっています。自動吻合器という筒状の機械を使って残った直腸と結腸をつなげるようになったことが大きな役割を果たしています。

がんの肛門側の境界が肛門から4cm以上、歯状線(肛門と直腸との境界)から2cm以上離れていれば、肛門を温存することが可能です。肛門温存術と自律神経温存術を併用し術後の機能障害をかなり減らすことが可能となりました。

最近では、直腸と肛門の境目(歯状線)にかかる肛門にきわめて近い位置にある直腸がんであっても、早期がんや進行がんの一部で肛門括約筋(肛門を閉める筋肉)を部分的に切除しつつ肛門を温存する手術「内肛門括約筋切除術(ISR)」も行われるようになってきています。

肛門括約筋の働きが低下した高齢者では肛門を残すことでかえって生活の質が悪くなることもあります。病気の進行度と手術の良いところと悪いところをご理解いただき、年齢、体力、本人や家族の希望などを加味し術式を決定することが重要です。

ISR(括約筋間直腸切除術)

肛門には、自分の意思では動かせない内肛門括約筋と、動かせる外肛門括約筋があり、ISRでは内括約筋を切除して外括約筋は残します。残った外括約筋を意識的に締めることで、排便機能はある程度維持することができます。この方法により、肛門から2~3センチしか離れていないがんでも、吻合部の傷が癒えるまで一時的な人工肛門は必要ですが、永久の人工肛門をつくることなく切除できるようになりました。

このISR手術は1994年頃に開発され、全国でも専門施設を中心に実施されています。手術の治療成績もこれまでの手術と同程度と報告されており、当院でも積極的に行っています。究極の肛門温存手術であるこの手術を、当院ではお腹を大きく切る必要のない腹腔鏡手術で実施しています。

人工肛門造設術

肛門に近い直腸がんや肛門にできたがんでは、永久人工肛門を造設する腹会陰式直腸切断術が現在でも標準的な手術です。
肛門括約筋の働きが低下している場合には、肛門温存術を無理に行っても手術の後に排便障害で苦しむ可能性が高いです。肛門を温存できる状況であってもあえて人工肛門造設術を選択することもあります。
当院では、専門看護師(WOCナース)が人工肛門を持つ患者さんの生活支援をきめ細く行っていますので、お気軽にご相談ください。

3. 化学療法

大腸がんの化学療法は、進行がんの手術後に再発抑制を目的とした補助化学療法と、根治手術が不可能な進行がん、または再発がんを対象に生存期間の延長及び生活の質の向上を目的とした化学療法があります。

補助化学療法は、stage IIの再発危険群とstage IIIで全身状態の良好な方が適応となります。治療方法はFOLFOX療法、XELOX療法、5FU + ロイコボリン療法、ゼローダ、UFT + ロイソボリンがガイドラインに示されています。治療効果はFOLFOX療法がその他の療法より生存率を10%程度改善するとされています。ただし、副作用や治療方法の複雑さなどの問題がありますので、主治医と相談して治療方法を決定してください。

根治手術が不可能な進行がんに対しては、FOLFOX療法、XELOX療法、FOLFIRI療法に分子標的治療薬であるアバスチン、ベクティビックス、アービタックスを組み合わせる治療方法を行います。スチバーガ、ロンサーフの導入も行っています。これも有効性と副作用を十分考慮して最適な治療方法を主治医と相談して決めてください。

さらに進んだ治療は治験として導入しています。

化学療法センターのご紹介

4. 放射線療法

大腸がんの放射線療法には、手術可能な直腸がんで骨盤内再発の危険性を下げる、がんの縮小や肛門温存をはかるなど、手術の補助を目的にした放射線療法と、切除が困難な場合に骨盤内の腫瘍による痛みや出血などの症状を和らげること目的とした放射線療法があります。

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