医療現場のいま 第五回 消化器内科における最新の取り組み

  1. 消化器内科とは
    -「食べる」ことに関係するすべての臓器を診療します。-
  2. 関西ろうさい病院消化器内科の取り組み
    -「消化器がん診療」「肝疾患診療」「内視鏡治療」を3本柱に地域医療に貢献します。-
  3. 消化器がん診療
    -正確・迅速ながんの早期発見に努め、ご本人の意思が尊重された最適な治療を行います。-
  4. 肝疾患診療
    -肝炎から肝がんまで肝疾患のトータルマネジメントを実現させます。-
  5. 内視鏡治療
    -新たにオープンした内視鏡センター、多彩な先端的機器により高度・専門的な技術を提供します。 -
  6. 薬物治療、治験 (ちけん) について
    -一人ひとりに最適な薬剤の選択ときめ細かい副作用対策で、患者さんの治療効果の向上を図ります。-
  7. メッセージ
    -ひとりでも多くの方の治療にあたり、その方の生命、生活を守りたい。-

平成24年9月公開
(※ 取材対象者の所属及び内容は平成24年7月取材当時のものです)

消化器内科とは

人は、食べることによって、その命と健やかな身体を維持しています。口から入った食べ物は、食道から胃・十二指腸・小腸・大腸という管を通り、さらに肝臓・胆のう・すい臓という臓器の働きを受けて体内で消化されます。内科は、扱う臓器により、複数の専門領域に分かれていますが、消化器内科は、この”食べ物を消化する”という行為に関わる臓器を専門に診療する内科となります。扱う臓器数が多いので、「消化管」、「肝」、「胆・すい」の臓器群に細分されることもあり、診断と内科的処置・治療に習熟したエキスパートで構成されます。対象とする疾患は、感染症や炎症性疾患から、早期がんや手術の対象とならない進行がん、さらに長期的な治療を要する慢性疾患に至るまで多岐にわたり、検査や治療の種類も実に多様です。

関西ろうさい病院消化器内科の取り組み

関西ろうさい病院は、地元尼崎市をはじめ、阪神間に住む人々の健康を支える急性期医療機関として高度で専門的な医療の提供に努めています。当院での消化器診療の歴史は長いものの、これまでは内科の一部門である消化器グループとして位置付けられてきました。消化器疾患患者数の増加、消化器疾患領域における専門性の向上に伴い、より高度で先進的な医療に専念できる体制を確立するため、2011年4月に従来の内科から独立し、単独の診療科として正式に消化器内科を標榜しております。

さらに、当院は地域がん診療連携拠点病院に指定されており、がん診療においては、極めて質の高い医療提供が可能な体制を整えています。雑誌『中央公論』によると、尼崎市は、がん標準化死亡比と呼ばれる指数が非常に高く、平成15~19年の統計データによると、男性は全国ワースト1位、女性はワースト2位であることが報告されています。また、肝がんでも男女ともワースト10に入っていることが明らかとなっています。このような結果を踏まえ、当院の消化器内科ではがん診療のさらなる充実を図るため、「消化器がん診療」、「肝疾患診療」、「内視鏡治療」という3つの重点項目を”消化器内科の3本柱”として、地域との医療連携を密にし、診療機能向上を図っています。

消化器がん診療

消化器がんは、日本のがん患者の約半数以上を占めると言われています。食の欧米化や生活習慣の乱れ、加齢に伴う臓器機能の低下など原因はさまざまですが、その多くは初期の段階では自覚症状がほとんどないため、がんが発見され治療が開始される時期にはがんの発生からすでに相当の時間が経過しているということが一般的です。がんと疑われた場合に『今すぐにでも治療してほしい』というのが心情であると思いますが、大切なことは正確に診断を確定させ、どのように治療を行うかの方法を決定することです。

当科では、がんの診断について、主治医が一人で判断するのでなく、消化器内科消化器外科放射線科等の複数の医師が一同に会して、診断・治療方法について個別に検討しています。どのように治療を進めていくかについての複数の選択肢を、ご本人、ご家族を含めてご説明し、納得のいく治療法をご本人の意思を尊重して決定できるように配慮して診療しています。早期の病変であれば外科手術をせずに内科的な治療で治せるというのも大きな特徴です。

日本消化器病学会認定施設である当院では、各分野の専門医による正確かつ迅速な診療で消化器がんの早期発見に努めています。また、様々な方法で情報発信し、疾患に対する正しい知識の普及啓発を目指しています。定期的な検診の受診は早期発見に役立ちます。当院では人間ドックも行なっております。

肝疾患診療

肝炎は国内最大規模の感染症でありながら、肝臓は「沈黙の臓器」と言われているように、肝炎になっても全く自覚症状がないので、実際に治療を受けているのは、ごく一握りの方のみであったのが現状です。最近では、健診やウイルス肝炎検診を契機に発見される方も増え、治療法の急速な進歩もあり、C型肝炎の治療実績もぐんと上がってきました。

一方、肝がんは他のがんとは少し異なる性質を有するがんです。それは発症する人をあらかじめ特定、予測できるという点にあり、肝硬変や肝炎を持つ方に発症する確率が高くなっています。中でも日本人に最も多いと言われているのが、C型と呼ばれるウイルス性肝炎から肝がんを発症する場合で、肝がん患者のおよそ70%はこのC型肝炎ウイルスに感染しています。

肝がんも消化器がん同様、初期の自覚症状がほとんどないために、知らぬ間にがんが進行している危険性があります。しかも、肝がんは他の消化器がんに比べて再発率が高く、一度発症すると長期的な治療が必要になるという特徴があるので、一日も早い肝炎の診断と治療が必須と言えるでしょう。肝がんの診断については、肝炎の段階からの定期的な各種画像検査や血液検査により早期発見に努めており、内科的治療としてはラジオ波焼灼療法(RFA)、カテーテル治療(TAE等)、薬物治療等に取り組んでおります。

当院は、兵庫県から肝疾患専門医療機関に指定されていることに加え、日本肝臓学会の肝臓専門医制度認定施設に指定されています。肝がんの基礎となる肝炎・肝硬変も含めたトータルマネジメントが可能であり、肝炎から肝がんへの進展を可能な限り防ぎ、最新医療技術を駆使した効果的な治療を提供しています。

内視鏡治療

当院の消化器内科の3本柱の一つである内視鏡治療についてご説明します。内視鏡は、診断のための検査法の一つですが、最近では、検査だけではなく内視鏡を利用して病変にさまざまな処置を行う内視鏡治療という技術やそのための機器・器具が著しく進歩してきています。先ほども早期の病変に対して、外科的な手術ではなく内科的な治療が進んでいるとお話しましたが、当院で実施している最新の内視鏡検査や内視鏡治療、特にESDについて、また、それらの検査、治療を行う内視鏡センターについて併せてご紹介したいと思います。

内視鏡について

従来の内視鏡では消化管の内面を通常の光で照らすことで、そこにある凹凸や色を見ながら診断し、がんの場合は、細胞を採取し顕微鏡で判定するというのが主流でした。

最近では新たな診断技術・機器の開発が著しく、この10年間で相当の進歩を遂げています。当院では、従来のこの一連の検査に加えて、拡大内視鏡や特殊光を用いた内視鏡(Narrow Band Imaging 略してNBI)による検査を導入しています。臓器にがんができると、血管の走行は正常とは異なってきます。NBIは粘膜表層の毛細血管や微細構造を強調表示することができ、拡大内視鏡は約100倍ズームでも観察できるため、通常の内視鏡検査では判別の難しい病変の早期発見や範囲診断に飛躍的な効果を上げています。

また、最近では膵がんの診断には、EUS-FNA(超音波内視鏡下穿刺吸引生検法)という検査法を取り入れています。これは、超音波内視鏡という超音波を発信できる内視鏡を用いて、体内から超音波を当てながら病変部位を特定し、内視鏡の先端から直接病変細胞を正確に採取することができる画期的な検査です。

ESD (イーエスディー) について

当院では、食道がん、胃がん、大腸がんの内視鏡治療に、”ESD”(内視鏡的粘膜下層剥離術)を取り入れています。従来の手法である”EMR”(内視鏡的粘膜切除術)では、スネアというリング状の器具を使って病変を摘出していましたが、病変の直径が2cmを超えると病変を一括して完全に取り除くことが難しく、その場合は外科手術を選択せざるを得ませんでした。

一方”ESD”は、針状の電気メスで病変のまわりから剥がし取るように切り取ることができるので、横に広がる病変のサイズに制約がありません。これによって、2cmを超える病変を一度の治療で完全に取り除くことが可能になりました。ただし、食道、胃、大腸の粘膜は、いずれも薄く、病変部位だけを取り除くためには、技術的な習熟が必要で、実施できる施設はまだ少ないのが現状です。

内視鏡治療は外科手術とは違い、お腹を切ったり臓器を切除することがないので、身体への負担が少なく、術後は約1週間程度で退院できます。また、大腸がんに対する”ESD”は2012年の4月から健康保険が適用される治療になっています。”ESD”は、患者さんの将来にわたる生活の質を保ちながら、安心して治療に臨んでいただけるという大きなメリットのある治療法となっています。

重症虚血肢カンファレンス
内視鏡センターについて

前述のような最新の機器や技術をいかんなく診療に反映するため、2012年4月より、4つの独立した検査室や専用の回復スペースなどを有する内視鏡センターが本格的に機能し始めています。

当院は日本消化器内視鏡学会指導施設であり、幅広い検査、治療法のニーズに対応できる多数の医療機器、関連設備を当センターに集約して、患者さんの身体状況をより正確に把握できる環境を整えています。しかし、どれだけ最新の機材を取り揃えたとしても、それが患者さんに苦痛を強いる検査法であれば、患者さんの受診・再診率が滞るばかりか、がんを早期に発見することさえできません。

そこで当院は、少しでもストレスを感じることなく検査を受けていただくため、身体的、精神的負担の少ない方法で検査を実施するとともに、ソフト面の配慮にも注力しています。たとえば、鎮静剤によって眠っている間に検査を行う鎮静下内視鏡検査を導入していますが、当院では検査後もストレッチャー等に移乗することなく検査ベッドのまま回復室までスムーズに移動していただくことで、ゆっくりと身体を休めてから帰宅できるようになっています。上部消化管内視鏡(いわゆる胃カメラ)の検査には、鼻から入れる細径内視鏡(経鼻内視鏡)も使用可能です。これらのハード面、運用面の配慮も当内視鏡センターの魅力です。

内視鏡センターでは、今後はますます近隣の医療施設との連携を図り、消化器診療に精通した医師により、患者さんへの負担が少ない優しい医療・安心できる医療の提供を心がけ、定期的な検診から高度な技術を必要とする治療まで幅広く診療を行っていきたいと考えています。

薬物治療、治験 (ちけん) について

薬物治療

2007年に「がん対策基本法」が新たに施行され、地域がん診療連携拠点病院である当院も、がん診療においては確立された標準治療を基本としています。しかし、それに基づいた治療を続けているだけでは、現在の治療法以上の効果的ながん診療を提供することはできません。

がんの薬物治療と聞くと、多くの方が抗がん剤治療を連想されるのではないかと思います。抗がん剤は、がんの進行を抑える化学療法薬であると同時に、正常な細胞にも深刻なダメージを与えてしまうというデメリットがありました。そこで近年注目を集めているのが、分子標的薬という新しい抗がん剤です。この新薬は、がん細胞の成長を促す分子だけに働きかけることで、がんの進行を抑制しますが、正常細胞まで一緒に攻撃してしまうことはありません。私たちは学会や研究会を通じ、最新の有効な治療法に関する情報を収集しており、従来の抗がん剤治療に、分子標的薬のような最新医療を組み合わせることで、さらなる治療実績の向上を目指しています。

肝炎の治療についても従来から使用されているインターフェロンという有効な薬物治療がありますが、患者さんは倦怠感などの重い副作用に耐えなければならず、うつ病が出現する方などでは、治療半ばで断念せざるを得ないケース等もあり、なかなかその効果を実感することができないというのが現状でした。当院では、それぞれの病状に応じた薬剤選択やきめ細かな副作用対策等により、肝炎の薬物療法についても治療効果の向上を図っています。

治験 (ちけん)

当院は”治験”を実施している病院です。治験とは、開発中あるいは開発完了した新薬や既存薬の新たな投与方法について、実際に治療に用いてその効果を検証することにより、新しい治療法を確立するために実施する臨床試験です。臨床試験(治験)という形で、薬剤をより有効な方法で投与したり、新薬をいち早く患者さんの治療に役立てたいと考えています。治験に用いる薬剤や効果測定のための検査は健康保険が適応されませんが、費用負担はありません(開発元が負担する仕組みになっています)。特に肝炎領域では新規薬剤の開発が多数進行中で、今後も複数の治験が予定されています。現在の標準治療よりも効果が期待できるという意味では、今後ますます患者さんの治療に大きく貢献することが予想されます。

メッセージ

私たちは「ひとりでも多くの方の治療にあたり、その方の生命、生活を守りたい。」という強い信念を持っております。当院はがん診療連携拠点病院、そして肝疾患専門医療機関に指定されていますので、その責任を全うして阪神間の消化器疾患診療の拠点として高度で専門的診療を提供していきたいと思っています。

当院の消化器内科は、特に大阪大学との連携を図っております。消化器専門医10名、肝臓専門医8名、そして内視鏡専門医8名という充実した布陣となっており、市中病院でありながら、大学病院に引けを取らないほど、それぞれの分野におけるエキスパートによる診療体制が整えられていると自負しています。また、正確かつ迅速な診断に必要なCT、MRI、PET-CTなどの大型画像診断機器も充実しており、内視鏡センターには各種内視鏡診断機器・治療機器等が整備されています。院内のみならず近隣大学や主要医療機関とも円滑に連携することができ、現在選択し得るあらゆる治療法を提案できるものと考えております。

がんの方には「安全かつ最適な治療を選択し、一緒にがんばりましょう」、肝炎の方には「治せるものなら治しましょう」というコンセプトで診療にあたっております。消化器疾患について、少しでもご不明な点がございましたら、ぜひかかりつけの先生とご相談の上、一度当院まで足をお運びください。患者さんにとって最高水準の治療を提供するよう努めますので、当院消化器内科をぜひご活用ください。

ページの先頭へ