確かな臨床検査で高度急性期医療を支えています
検査科は「常に患者さんの立場に立って」をモットーに、24時間365日、診療の根拠となる臨床検査データを通じて当院の高度急性期医療を支えている診療支援部門の1つです。
臨床検査は、採血や採尿など採取された検体を対象とする検体検査と、心電図検査や超音波検査など患者さんの身体を直接調べる生理機能検査に大別されます。多くの検査項目を院内で実施していますが、特殊な検査項目は民間検査会社に外部委託して対応しています。検査体制としては、医師2名、臨床検査技師51名、助手2名で構成しています。
当院の提供する高度化・多様化する医療を支えるために、良質で迅速な臨床検査の提供という私たちの普遍的な責務に加え、時代の変化に柔軟に対応できるメディカルスタッフを目指しアップデートを重ねています。
運営方針
当院の基本方針である「高度急性期医療の提供」「地域医療の充実」「勤労者医療の推進」を支えるために、提供するすべての検査分野において良質かつ迅速な臨床検査データの提供を目指しています。
検査品質について
臨床検査の質の保証については、統計学的手法による内部精度管理、保守管理台帳に基づいた機器保守管理、適正な試薬管理、外部精度管理調査の受検など、医療法を遵守した検査室運営により検査の質を保証しています。
外部指標 -外部精度管理調査と品質保証施設認証制度-
当検査科は毎年主要3団体主催の外部精度管理調査を受検し、毎年概ね90%以上の良好な成績を修めています。また、令和4年度に日本臨床衛生検査技師会により創設された「品質保証施設認証制度」に認証され、今後も継続的に更新する予定としています。いずれも、当院が信頼性の高い臨床検査データに基づいた診療を行っていることの客観的な指標となります。
令和4年度 | 令和5年度 | 令和6年度 | |
---|---|---|---|
日本医師会 | 95.3 | 95.0 | 89.9 |
日本臨床衛生検査技師会 | 98.4 | 99.2 | 99.6 |
兵庫県臨床検査技師会 | 99.5 | 98.9 | 97.9 |
(いずれも100点中)
検査技術について
臨床検査を担当するスタッフは、全員「臨床検査技師」の国家資格を有しています。また、各検査分野における学会認定資格の取得を励行し、高度化・多様化する医療に対応できるエキスパートが多数在籍しています。
認定資格名称 | 取得者数 | 認定資格名称 | 取得者数 |
---|---|---|---|
細胞検査士 | 9名 | 超音波検査士(消化器) | 3名 |
細胞検査士(国際) | 3名 | 超音波検査士(循環器) | 3名 |
二級臨床検査士(血液) | 8名 | 超音波検査士(血管) | 3名 |
二級臨床検査士(呼吸生理) | 1名 | 血管診療技師 | 2名 |
二級臨床検査士(神経生理) | 2名 | 脳神経超音波検査士 | 1名 |
二級臨床検査士(循環生理) | 1名 | 日本心エコー図学会 認定専門技師 |
1名 |
二級臨床検査士(微生物) | 3名 | ||
二級臨床検査士(免疫血清) | 1名 | 日本臨床神経生理学会 認定技師(脳波部門) |
1名 |
二級臨床検査士(病理) | 2名 | ||
認定輸血検査技師 | 3名 | 認定病理検査技師 | 2名 |
認定血液検査技師 | 4名 | 認定心電図検査技師 | 1名 |
認定骨髄検査技師 | 1名 | 糖尿病療養指導士 | 1名 |
緊急臨床検査士 | 3名 | その他の資格 | 14名 |
認定救急検査技師 | 1名 | ||
細胞治療認定管理師 | 1名 |
実績・取り組み
1)検査実績(令和6年度)
検査分野 | 件数 | 備考 |
---|---|---|
検体検査 | 4,400,000 | 生化学・免疫・血液・輸血・尿・便・その他 |
微生物学的検査 | 31,000 | |
病理検査 | 17,200 | 組織診9,300件、細胞診7,900件 |
生理検査 | 84,000 |
2)各種取り組み
①患者サービスについて
一日およそ350~400名の外来患者さんに対する採血は、看護師と臨床検査技師が協力して行っています。採血システムに加え、患者さんと採血者相互によるご本人確認、『採血禁止肢やアルコールかぶれの有無、抗凝固療法(血液をサラサラにするお薬)における服薬』などの確認遵守、採血合併症(めまい、失神、気分不良など)に対する迅速な対応の整備など、安心安楽な採血のための体制を整備しています。
また、できるだけ患者さんの待ち時間を短縮するために、混雑状況に応じた採血人員の配置や、化学療法前の患者さんの呼び出し順に配慮して円滑な治療につなげるなど、患者さんのご負担をできるだけ軽減できるような運用を行っています。
②医療安全について
検体・患者取り違え防止対策
当検査科では、電子カルテシステムによる医師の検査依頼入力から、検査・分析から結果報告まで一貫した検査情報のシステム化により、取り違えが発生しない体制を構築しています。
システムが介在しない人と人の確認が必要な場面では、患者さんとスタッフ相互によるご本人確認や複数人でのチェック体制により、人的要因によるエラーを抑止しています。例えば、外来採血室における患者確認の方法は、①採血システムによる整理券番号札での照合確認 ②患者さん自身に氏名をフルネームで名乗っていただく ③患者さんと採血者相互で採血容器の氏名を目視確認します。
異常値へのアプローチ
検体検査システムに異常値アラート機能を備え、分析結果が異常値の際には一目で判別できるようにしています。異常データが発生した場合は、技師が臨床的、時系列的に解析し、必要に応じて再検査を行うなど異常データのすり抜け防止対策を講じています。また、パニック値(生命の維持が危ぶまれる検査値)が確認された場合は、医師に必ず直接連絡する体制としてアクシデントを抑止しています。
安全で適正な輸血医療のために
当院は救急体制の充実を掲げており、2024年度における輸血用血液製剤(赤血球製剤)の使用は9,364単位中27%が救急部で使用されています。救急部からの超緊急輸血に対応するため、大量輸血プロトコール(MTP)を導入しており、年間28件の緊急輸血が実施されました。緊急輸血用製剤を含めたすべて輸血用血液製剤は、検査科が一元管理することにより適切に保管されています。24時間体制で迅速かつ安全な輸血療法支援を行うために各診療科と密に連携し、適正な血液製剤使用推進により製剤廃棄率を12%削減しました(令和5年実績比)。
また、多発性骨髄腫や悪性リンパ腫の患者さんに用いる自家末梢血幹細胞移植(PBSCT)における自家末梢血幹細胞の保管・管理やお腹に針を刺し腹水を抜き細胞・がん細胞・血球成分を取り除きアルブミンなどの有用成分が濃縮された腹水を点滴で戻す治療法(腹水濾過濃縮再静注法(CART))に用いる腹水の保管・管理も行っています。
③チーム医療への参画
感染管理
ICT(Infection Control Team:感染制御チーム
医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師(微生物検査担当者)などの医療従事者及び事務担当者で構成されたICTでは、医療関連感染を未然に防ぐため、院内研修会の開催、院内ラウンド、地域連携病院とのカンファレンスや相互チェック、サーベランスなどを行うとともに、微生物検査室では抗酸菌塗抹検査やLAMP法による遺伝子検査を行い、院外から持ち込まれる結核などの伝播防止に努めています。
また、検査科では、分離菌、薬剤耐性菌検出状況、薬剤感受性データなど院内ラウンドに必要な情報を提供してアウトブレイク防止に貢献しています。また、2023年11月よりメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)、カルバペマーゼ産生菌(MDRP、CRE)などの薬剤耐性菌や長期間の抗菌薬使用により引き起こされるClostridioides difficile感染症による医療関連感染症に対するPOT法による分子疫学解析を行い、チーム医療に貢献しています。
また、尼崎市の結核罹患率は、全国平均や兵庫県と比べても高い水準となっています。抗酸菌検査は年々増加傾向にあります。
AST(Antimicrobial Stewardship Team:抗菌薬適正使用支援チーム
ICT内に設置されたASTでは、重篤な感染症診断で用いられる血液培養の解析を毎週一回行っています。血液培養については全自動遺伝子解析装置FilmArray Torchシステム血液培養パネルを利用し3時間以内で菌名および薬剤耐性遺伝子の迅速な報告を実施しています。更に検査科からは院内ラウンド資料を提供し、抗菌薬適正使用の推進に貢献しています。
血液培養件数と血液培養2セット採取率の推移
注)2024年は血液培養ボトルの供給制限の影響により件数は減少。2セット採取率は、供給制限期間を除くデータ。
糖尿病療養指導・栄養サポートチーム(NST)
糖尿病療養指導のコメディカルスタッフとして検査科から糖尿病療養指導士を含む4名が参加し、患者さんの立場に立って糖尿病とうまく付き合って重症化を防ぐために、テーマを工夫しながらできるだけ平易な言葉を用いて説明を行なっています。
また、週一回カンファレンスおよびラウンドに参加し、栄養アセスメントに関わる臨床検査データの提供と説明を行なっています。臨床検査項目としては、患者さんの栄養状態を評価する際に重要な指標となるアルブミンやプレアルブミン、予後予測因子となるリンパ球や亜鉛などを測定しています。これらの値の経時的変化を把握しデータの解析を行うことにより、患者さんに効果的な栄養提供が行えるようになります。
糖尿病療法指導(毎週火曜日) | NST活動(毎週水曜日) | ||
---|---|---|---|
患者指導 | 年間17件 | 指導患者 | 年間1,326名 |
糖尿病教室 | 年間20件 | NST委員会 | 月1回 |
糖尿病スクール (多職種公開講座) |
2024年6月 (検査の見かた) |
④専門性の高い超音波検査
循環器領域(心臓、下肢血管、経食道)
当院では、ABL(心臓カテーテルアブレーション治療)を年間600件、EVT(末梢血管治療)を年間600件と全国的に多く、超音波検査は循環器領域だけで年間10,000件を超える実績となっています。
心臓超音波検査では、心臓弁膜症・虚血性心疾患、感染性心膜炎、心臓腫瘍等の評価、先天性心疾患と内容は多岐に渡り、2019年からは左心耳閉鎖デバイスであるWatchmanデバイスの適応並びに術中術後評価のサポートも行っています。
また、近年高齢化や生活習慣病患者さん、透析患者さんの急増により、動脈硬化や糖尿病による足壊疽の患者さんが増加しています。このような包括的高度慢性下肢虚血(CLTI:Chronic Lumb-Threatening Ischemia)患者さんの予後は1年以内の死亡率25%と悪性疾患に匹敵するほど悪く、死因は下肢の潰瘍ではなく40-60%が狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患が原因と言われています。早期に全身血管性病変に対しては、治療を行い生命予後の延長をはかることが重要です。そのため、CLTIでは他職種と共にチームを組み管理と治療を行う必要があります。下肢動脈超音波検査では通常の末梢動脈疾患の評価に加え、足創傷周辺の血流評価を行うことにより、治療介入が必要であるかタイミングを評価することにより、CLTIのチーム医療に貢献しています。
シャント(バスキュラーアクセス)
当院では、シャント(バスキュラーアクセスともいいます)専門の外来を開設しており、近隣の基幹病院や透析クリニックからシャント作製前の血管評価や維持透析患者さんのシャントトラブルに対する原因精査の紹介を受け、積極的に超音波診断(エコー検査)を実施しています。検査件数は年々増加しており、現在では年間約3,000件の検査実績を有しています。
血液透析を導入する前の準備としてシャントの作製が必要になりますが、どのタイプのシャントを、どの部位に作製可能か判断するための情報を提供しています。エコー検査は侵襲性が低く、人体に影響のない安全な検査で、特に造影剤が使用できない透析導入前の腎不全患者さんにおいては大変有用な検査手法です。検査時間は、平均10分から15分程度で、必要に応じて両腕を検査することもあります。術前のみならず、術後の評価も行っています。
シャントは一度作製すれば一生涯良好な状態を維持できると思われがちですが、さまざまな合併症を伴うことが少なくありません。最も多いのが、動脈と静脈が吻合されている部分における狭窄病変の発現です。これにより、透析に必要な血流量が確保できなくなり、良質な透析を行うことができなくなります。そのような場合は、エコー検査でシャントを観察することで、血流の程度(血流量や末梢血管抵抗指数など)や狭窄および閉塞病変を評価することができます。さらに、シャントの状態が不良である場合は、治療のために使用するデバイスの参考情報(バルーンカテーテルの太さなど)が得られます。このように、適切な時期に適切なエコー所見を提供することで、安全で効率効率的な治療に貢献しています。
その他、エコーガイド下PTA(経皮的血管形成術)においてもエコーを活用し、造影剤を使用しないカテーテル治療を行うことにより人体に影響の少ない治療を行うことができます。
これらに従事する超音波検査士は、シャント外来専属のエキスパートです。難易度の高い症例に対しても、適切に対応できるよう日々研鑽を重ねています。
● 中央検査部学術業績(PDFファイル)
スタッフ
橋本 光司(はしもと こうじ)
役職 | 部長 |
---|---|
資格等 |
吉村 道子(よしむら みちこ)
役職 | 第二部長 |
---|---|
資格等 |
髙水 竜一(たかみず りゅういち)
役職 | 中央検査部長 (技師長) |
---|